「今日は体術やるよー!」
先生の一言で5人全員で外へと出た。すると禪院さんはなんか木の棒を取り出していた。体術って武器ありなんだ。
「今日はとりあえず名前の力が見たいね。呪霊出せる?」
『………やってみます』
やってみます、とは言ってみたものの出し方も何も分からない。何も起きないことに禪院さんが鼻を鳴らした。
「はっ…、呪霊使いっつってたけど出せもしねぇじゃねぇか」
「まぁまぁ。名前はまだ呪術師になったばかりなんだ」
「でも出せないんじゃあ意味無いんだよねぇ。そんなんじゃあ任務なんて行かせてあげられないなぁ」
『…………』
ふざけんな。早く私は任務に行かないといけないんだ。さっさとお金を稼がないといけないんだから。アイツらが自由になる前に。アイツらが私たちの前に現れる前に。
『……………さっさと私は、』
ズズズと地面から音がして視線を落とすと私の影から大きなムカデが現れた。禪院さんは嫌そうな声を出してパンダは驚きの声を上げていた。
「うわキモッ!」
「ムカデかぁ。凄いな」
「高菜!」
「………うん、出せたね」
私が先生を睨むと、彼はニヤニヤと笑っていた。最初から煽ってたんだ、私を。まぁ、分かってたけど。
「とりあえず名前はそのムカデを暴走させずに出したままにして、組手をしてもらう。でもそのムカデに攻撃させちゃ駄目だよ」
『…はい』
「相手はそうだなぁ……棘、名前の相手してあげて」
「しゃけ」
狗巻くんは頷いて私の前に立つと一礼をした。私も軽く頭を下げると狗巻くんは拳を握って体勢を少し低くした。
「それじゃあ…よーいどん!」
先生の声と同時に走り出した狗巻くんは右手を握り締め振りかぶった。
『…………』
その姿があの男と重なって見えて体が動かなくなった。避けないと、頭では分かってるけど体は動かない。動け、動け、
『………っ、』
突然視界が真っ暗になって目を見開くと、視界の端に赤い部分が見えてムカデが守ってくれたんだと気づいた。私を包む様にとぐろを巻いたムカデはゆっくりと解けていった。
『………』
「名前、体術だよ。避けないと」
『…………はい、』
私が先生の言葉に唇を噛むと狗巻くんは私を気遣う様な視線を投げてきた。それを無視して視線を下に落とすと先生は私から視線を逸らして禪院さんたちを見た。
「じゃあ次!真希とパンダ!その後はパンダと憂太」
「ボコボコにしてやんよ」
「出来るかぁー?」
私は唇を噛んで、地面を蹴るように移動して地べたに腰を下ろした。いつまでアイツらに怯えてんだ。怯えてる暇なんてないのに。私は早く強くなってお金を稼がないといけないのに。膝を抱えて顔を埋めると少しだけ冷静になれた気がした。
「………いくら?」
『……………』
「高菜、……明太子、」
狗巻くんの声が聞こえて少しだけ顔を上げると、彼の靴が見えた。随分と使い込まれてる。
『……なに?』
「高菜、……すじこ」
『………何言ってるか、わかんない…、』
私が眉を寄せると狗巻くんは私の前にしゃがみこんで木の棒を拾うと文字を書き始めた。
「……いくら?」
『………別に、大丈夫、』
「…………高菜、」
『……狗巻くんは悪くないでしょ。私が突っ立ってたのが悪いのになんで謝るの』
「…………明太子?」
『………怖くない。怖がってる暇無い』
私が視線を逸らすと狗巻くんは首を左右に振った。
「おかか、」
『……なに?』
狗巻くんはまた棒でガリガリと地面に文字を書いた。地面には焦っちゃ駄目≠チて書いてあった。
『……焦らないといけないの。時間が無い』
「……高菜?」
『アイツらが自由になる前に、どうにかしないと、』
私がそう言うと狗巻くんはまた口を開こうとしたけどそれよりも先に先生に呼ばれた。
「名前!次は真希と呪具を使って組手してみて」
『はい、』
禪院さんと向き合って先生の合図が出された次の瞬間から記憶が無かった。気がついた時にはベットに寝かされていて体を起こすと家入さんがいた。
『……』
「起きたか。頭の痛みは?」
『……いえ、特には』
「そうか」
私の頭には包帯が巻かれていた。触ると痛みが走るから多分切れてるんだと思う。
『……先生どこにいるか知ってますか』
「先生って…五条?」
『はい』
「職員室とかにいるんじゃないか?」
『分かりました。ありがとうございます』
私は職員室を目指して歩いていると前から狗巻くんが現れて、私に気づくと駆け寄ってきた。
「高菜…!」
『………えっと、……大丈夫』
「すじこ…」
多分私の予想は当たってた。大丈夫?って聞いてきたんだと思う。多分だけど。安心したように息を吐く狗巻くんに私は職員室の場所を聞くと彼は目を見開いて少しだけ嬉しそうに目じりを下げた。
「いくら!」
『…いや、教えてくれればそれで、』
指をさして歩き出した狗巻くんに私は仕方なくついて行くと、中には先生が居た。彼にお礼を伝えても帰る気がないのか私と一緒に職員室の中に入った。もしかしたら狗巻くんも先生に用事があるのかもしれない。
「あれ?棘と名前じゃん。どうしたの?」
『………お願いがあって』
「え!名前が!?」
『………そんなに意外ですか』
「意外だね」
先生は楽しそうにそう言うとまたニヤニヤと笑っていた。正直嫌だけど背に腹はかえられない。
『呪具の使い方と戦い方を教えて欲しいです』
「いいよ」
『…………』
「…………」
「なんで2人とも驚いた顔してんの?」
『……素直に、教えて貰えると思っていなかったので』
「……しゃけ」
「本当に失礼な教え子だなぁ」
先生は椅子の背もたれに体重をかけると椅子が辛そうにギシッと音を立てた。
「それで?棘は?僕に用事?」
「おかか」
「え?無いの?なんで来たの?」
「高菜」
「付き添い?なんで?」
『私が職員室の場所が分からなくて』
「だから棘に案内してもらえば良かったのに」
『職員室と教室とトイレさえ分かってれば困りませんから』
私がそう言うと先生はふーん、と言いながら両手を頭の後ろに移動させて手を組んでいた。
「棘も参加する?」
「しゃけ!」
『え、』
「人は多い方がいいでしょ?それに棘は二級術師だから名前より余っ程強いよ」
『……彼が強いことは、知ってます、』
私がそう言うと狗巻くんは驚いたように目を見開いていた。驚く様な事を言ったつもりはないんだけど。
「とりあえず、名前が自力で稼ぐためには少なくとも棘から1本は取れるようにならないと」
『……………頑張ります』
私が眉を寄せてそう言うと狗巻くんは握りこぶしを作って力こぶを見せるような動きをした。
「明太子!」
『………うん、頑張る』
すると狗巻くんは笑って何度も頷いていた。またそんなに頭を振ると酔っちゃうのに。でも何となく頑張れるような気がした。