失くしたファンタジー
『ーーって事なんだけど…』
「……………悪い、意味が分からない」
「とにかく名前は生きてるし深い事は考えなくて良いよ。命がある事を喜ぼうよー!」
『確かに!命があるだけ良いですよね!更には腕も足も生えてきて!最高ですよ!』
「………頭痛くなってきた」
『えぇ!?大丈夫!?家入さん呼ぶ!?』
「アンタらのせいだ…」
『なんで!?』
名前は上体を反らして驚くと、それを見た伏黒は少し目を見開いた。
「…オマエ、その格好…」
「え?今更?」
『私も高専に通うことになりました!』
名前は椅子から立ち上がり、両腕を広げて一回転するとポーズを決めると、伏黒は眉を寄せた。
「名前は特級を取り込んだ様なモンだからね〜。運良く受肉してくれて良かったよ。呪いも見えるしこれから術式だって刻まれる。なら高専に来るべきでしょ?」
「………」
『…伏黒くん?』
伏黒は唇を噛んで視線を下げたせいで名前は伏黒の表情が見えなくなってしまった。けれどそんな伏黒の頭に名前は優しく、陶器の触れるように丁寧に手のひらを置いた。
『……私は自分で選んだんだよ。伏黒くんのせいじゃない』
「……俺が、オマエを守れなかったからだろ。本当なら、こんな事にはならなかった。」
『伏黒くんは守ってくれたよ!だから私は生きてるわけだし!』
「………本当なら、…本当ならオマエは普通の学校に通って、命の危険なんて味わう必要も無かったんだ…、」
『………確かに、死ぬのは怖いよ。未だに昨日の事を思い出すと体が勝手の震えてくる』
名前は拒絶しない伏黒の髪をサラサラと指を通して弄ぶ。意外と硬くない髪に驚いていた。
『……でも、だからこそ命の大切さにも改めて気付けた。伏黒くんは私を守れてないって言うけど、私は助けてもらったよ、伏黒くんに』
「……助けられたのは、俺の方だろ」
『とにかく!私は私が望んでここに居るの!それに私は伏黒くんに助けられた!以上!』
「………」
『だからそれ以上自分を責めないで、傷つけないで。伏黒くんが責任を感じる事なんて何も無いんだから』
名前は伏黒の頬に手のひらを移動させると両手で頬を包み込んで優しく持ち上げて視線を合わせる。
『……私を助けてくれてありがとう、伏黒くん』
「……………………俺は、」
『それ以上言ったら右腕を切り落とすよ!』
「え、怖すぎない?」
「…………分かった、」
「恵も了承するんだ……、」
五条の言葉を聞いていないのか名前は伏黒に向かって右手を差し出した。
『これからは同期でクラスメイトなんだから、オマエ、とか、アンタって呼ぶのは無しだよ!私は苗字名前!改めてよろしくね!伏黒くん!』
「………あぁ、よろしく、……苗字」
2人は握手を交わしながら静かに口元を緩めた。