夜がいくつ壊れても

『さとるくんって、知ってる?』

「……………………」

「僕じゃないよ?」




名前の言葉に伏黒は五条を見るが、楽しそうに笑いながら五条は右手を左右に振って否定した。



『さとるくんっていうのは、都市伝説の男の子なんだけど、それが最近私の学校で流行ってたみたいなの。さとるくんは電話で呼び出す事が出来て、質問すると何でも答えてくれるんだって』



公衆電話にお金を入れて自分の携帯電話にかける。つながったら公衆電話の受話器から携帯電話に向けて「さとるくん、さとるくん、おいでください。」と唱える。すると24時間以内にさとるくんから携帯電話に電話がかかってくる。その電話に出ると、さとるくんが自分の位置を教えてくれる。そして何度も電話が鳴り段々と自分と距離が近くなり、最後には自分の後ろに居る。

だがその時、後ろを振り返ったりさとるくんに質問をしなければ報復を受ける。また、既に答えが出ている質問をしたり、さとるくんが教えてくれる前に質問の答えを聞いてしまうと、さとるくんが怒ってしまい報復を受けるとも言われている。




『って事らしいんだ』

「僕の考えだと、調査で呪力に波があったのは前日にそのさとるくんに電話をかけた人がいたかいないかの違いだと思うんだよね。今までは何も起きなかったけど、恵と名前は運悪く、そのさとるくん≠ニ出会っちゃったってわけ。さとるくんは都市伝説の一種で生徒達の恐怖心から生まれたんだろうね」

『現に私の学校ではさとるくんのせいで消えた子が居るって噂が広まってて最近では誰もやらなくなったって聞いてたんだけど…、』

「どっかの馬鹿が試しにやってみたんだろうね〜。いや〜、中学生の好奇心って怖いねぇ〜!」





楽しそうに軽い口調で言う五条に伏黒は眉を寄せ、睨みつけるが慣れているのか五条はクルクルと椅子を回して遊び始め、回ったまま名前に声をかける。


「名前、そろそろ本題の方言ってあげたら?恵もそっちの方が気になるでしょ?」

『そうですね、私の手足の話をしよっか』

「あぁ、」





すると名前は何でもない様に楽しそうに笑って右腕をプラプラと動かした。





『私の体を流れてる血液の半分以上がさとるくんの血になっちゃった!』

「…………………………は?」

『だからね?血液のほとんどがさとるくんの血に、』

「聞こえてなかったわけじゃねぇよ!…………は?血のほとんどが呪いってどういう事だ!」

『なんか、私もよく分かってないんだけど…、』





******



『………だから、……だから、伏黒くんだけでも、助けて下さい、…お願いします、』



次の瞬間には名前の目の前に呪霊が鎌を喉元に突き立てていた。けれど鎌が首を切る事は無く、頭だけが名前の目の前に突きつけられていた。



ーーそう、文字通り頭だけが




「大丈夫……、じゃないね」

『………え、』





名前の前には片手で呪霊の頭を持っている白髪の目隠しをして全身が黒で覆われている男ーーー五条悟だった。




『…………よ、よか、った、』

「………多分、君はもう助からない。出血量が多すぎる。むしろ手足を切られてよく気を失わなかったよ」




安心したせいなのか、名前の体は五条に頭を切り取られたせいで首から大量の血を流して倒れ込んでいる呪霊と自分の血が溜まっている廊下へとビジャリと倒れ込んだ。





『……あの、大きな木の下に、男の子が居るんです、』

「……恵のこと?」

『…たぶん、そうです、伏黒くん、……あの人は、大丈夫ですか?』

「こんな時に人の心配してる場合?」

『…こんな時も、なにも、私はもう、流石に、死にますから…、だから、あの人だけは、助けて欲しいんです…、』

「…ふーん、」





五条は倒れて荒い息をする名前の近くにしゃがみ込んで呪霊の頭をコトリと床に置く。




『……私の血の色、変なの…、』

「この色は呪霊の血だよ。心配しなくても君の血は赤いよ」

『…そっか、良かった…、』



喋る度に頬が床についているせいで血が口の中に入ってきて名前は眉を寄せる。髪も顔も、体の全部が血だらけになって名前はポロリと涙を流した。




『…もう少し、綺麗に、死にたかったな…、』

「……そうだね」

『こんな血だらけで…、みんなびっくりしちゃう…、』

「…かもね」

『……死にたく、…ないなぁ、』

「…だろうね」




ボロボロと涙を流し続ける名前を五条は静かに眺めていた。その瞳にはほんの少しの同情が混ざっているような気がした。





『…痛みも何も感じないのに死んじゃうって…、あんまり実感湧かないですね…、』

「……………あれ?」

『痛みが無さすぎて手足が生えてきてるんじゃないかって思えます』

「うん、生えてる」

『だってさっきまで無かった右肩から先の感覚が戻ってきてるとすら感じるんですよ…』

「生えてるからね」

『最後に唐揚げが食べたかったな…、』

「食べれそうだよ?」

『………さっきからなんなんですか…、人の最後に水を差すような…』

「意外と最後じゃ無いかもよ?」

『……はァ?』

「ん、」




五条はツンツンと名前の右肩を指すと、仕方なく名前は視線を動かして右肩を見る。






『……………生えてるぅううぅぅう!?』

「不思議な事もあるもんだね〜」

『えぇぇえええぇぇぇ!?』





名前は飛び上がり、右肩と左足をぺたぺたと触って確かめる。その度に血がベタりと取れては張り付いていたがそんな事を気にしている余裕は無かった。




『なっ、なんで!?』

「多分、その呪霊の血が君の体に入り込んだんだろうね。だってその君の血と呪霊の血がが混ざってる所にダイブしたでしょ?それで運良く受肉してくれたんだね」

『ダ、ダイブ…、』

「いや〜!生きてて良かったね!」



そう言って五条は笑ってサムズアップをした。
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