不安を縫って食べて
「…………」
「目、覚めた?」
「……五条、先生…?」
「恵ってばお寝坊さんだな〜!もうお昼だよ?」
「昼…?………………あいつは!?」
伏黒が勢い良く上体を起こすと頭に激痛が走り傷を抑えて背中を丸める。すると五条は両手で親指と人差し指で拳銃のような形を作って伏黒を馬鹿にするように左右の指を順番に前後に動かした。
「え〜?もしかして恵って気になる子居るの〜?先生に話してみなよ〜!」
「ふざけないでください!俺が気を失った後どうなったんですか!?あいつは!?」
「……あいつって誰の事?」
「…………は?」
突然トーンを下げた五条に伏黒は目を見開いて五条の言葉をゆっくりと噛み砕く様に繰り返した。
「誰の事って…、どういう意味ですか…、」
「そのままの意味だよ。あの場所には恵しか居なかったよ」
「……そんなわけ、無いでしょ」
「いいや、恵だけだった。僕が着いた時には大きな木の下で恵が気を失って居たんだよ」
「……それ、じゃあ、あいつは、」
「……さっきから恵が言ってるあいつってさ、」
五条がいやらしい笑みを消してトーンを下げてまるで伏黒を睨んでいるのが目隠しをしているのに分かるぐらいの鋭さを含んでいて伏黒はグッと息を詰める。
「………この苗字名前ちゃんのことぉ〜!?」
『お久しぶりです!伏黒くん!…お元気そうで良かったです!』
「……………お、まえ、」
突然開かれた扉から現れたのは伏黒がずっと気になっていた名前本人だった。そして驚いたのはそれだけではなかった。
「…その、腕と、足は…、」
「え、恵ってば足見てたの?思春期〜?ヤラシイ〜!」
「本当に黙っててくれませんか…」
無くなっていたはずの名前の手足は出会った時と同じ健康的な四肢がしっかりと生えていた。安堵する気持ちと、どうしてだ、という疑問が伏黒の脳内を占領した。
『えっと、何処から話せば良いのかな…、』
「とりあえず名前の下着の色の話からじゃない?」
「ぶん殴りますよ」
「恵も知りたいくせに〜」
「ちょっと…、もう、本当に消えてくれませんか…、」
『えっと、伏黒くんは、体は大丈夫?』
名前は伏黒が使っているベットのそばに寄り、丸椅子に腰を下ろすと伺うように首を傾げて眉を下げる。
「…あぁ、……オマエは…、」
『……うん、大丈夫。腕も足も生えてる』
「……」
『まず、あれだね、伏黒くんを突き飛ばした事謝らないとだね。…ごめんなさい』
「…別に、俺は、」
『伏黒くんを突き飛ばした後の話からしよっか』
名前はそう言うと少し笑った。五条は長い足を投げ出して少し窮屈そうにいつもは家入が腰をかけている椅子を前後逆に座って背もたれに腕を乗せて楽しそうに笑っていた。