マリア様は眠いらしい

五条悟の考えていることに腹が立ったから、仕方ないけど訂正を入れることにした。




『まるで乙骨憂太みたいだな』

「……」

『って思ったでしょ?しかも解呪前と並ぶくらいの力とか思ってるんだ?…………一緒にしないでよ。乙骨憂太がどれだけ強くても結局はただの呪霊使いでしょ?けど私たちのは違うの。私たちは文字通り一心同体、運命共同体、2人で1人なの。あんな別個の人達と一緒にしないでください』

「本当に厄介だね…、その呪霊」





五条悟は目隠しを取るとガラス玉の様な瞳で私を見た。綺麗なその瞳が大嫌い。羨ましいな。そんな綺麗なものを持ってて。私なんて醜くて醜悪なものしか持ってないのに。だからって欲しいとは思わないけど。





「脱兎!」





私の周りに白くて可愛らしい兎がわらわらと集まったけど、どう見ても攻撃タイプではない。邪魔だなぁ。





『………可愛いけど、要らない』

「要らなァぁアあああァァい!!」






さとるくんが叫ぶど式神はドロリと地面に姿を消した。壊しても良かったけど、私って無駄な生殺与奪はしない主義だから。




「苗字…!」

『どうかしたの?伏黒くん』

「オマエどういうつもりだ!」

『……私が質問したんだよ?まずは私の質問に答えないとじゃない?』

「鵺!」

『…………邪魔だな』





伏黒くんが呼び出した鵺は私目掛けてやってくるから仕方なく距離を取る。すると体勢を低くした伏黒くんが私の前に瞬時に移動して手を伸ばすからまた後ろに下がる。それでも追ってくるから凄く邪魔。




『ーー動くな』

「っ!」





伏黒くんが動きを止めたうちに更に距離を取ると、釘が飛んできたからさとるくんに吹き飛ばしてもらう。うんうん、大きい腕は得だなぁ。




『野薔薇までどうしたの?そんなに怒って』

「名前アンタ!呪詛師にでもなるつもり!?」

『呪詛師…?…別になるつもりないよ?』

「は…?なら、なんで、」

『なんで…?……うーん、なんでって言われると…、』





私が答えないでいると後ろに五条悟が現れる事に気づいてさとるくんが守ってくれたけど蹴られた衝撃は大きかった。受身を取って体勢を持ち直すと足元から玉犬が現れてさとるくんに噛み付いた。痛そう。酷い。





「何故か僕の動きだけが読めるんだね」

『読めてても早すぎるのが鼻につきますけどね』

「それさ、あれでしょ。僕みたいに名前を本気で殺そうとしている奴の心しか読めないんでしょ?」

『バレるの早…』

「なら僕が名前を殺すのは結構大変だなー」

『その言い方だと大変なだけで殺せるみたいですね』

「まぁね。殺せるよ。でも、帳も降りてないからね。あんまり大暴れ出来ないんだ」





五条悟はわざとらしく肩を竦めると、彼の隣にもうひとつの影が加わった。





「………手伝います」

「わー!本当!恵ありがとう!」

「………でも殺しません」




今のは読まなくてもわかる。五条悟は甘いな≠チて思ったんだよね。私も思った。五条悟は元々伏黒くんに手伝わせる気だったんだろうな。わざとらしいうえに特に顔がうざいもん。




「野薔薇はどうにか頑張って眠ってるみんなを移動させて。できるだけ遠くに」

「待ってよ!まだ名前に何も聞けてないのよ!?」

「野薔薇」

「っ、」

「これは訓練でも、組手でも、ましてや遊びでも無い。話してる場合じゃないんだよ」

「…………」





野薔薇は唇を噛み締めると、キッと私を睨みあげた。その瞳にはキラリと涙が浮かんでいた。なんで?






「名前!ちゃんと後で話聞くからね!」




野薔薇の言葉の意味がわからず首を傾げると、野薔薇は大きな舌打ちを残してまずは女性の真希さんから運び始めた。追ってもいいけどやっぱり五条悟が邪魔だな。





「…まだ俺の質問にも答えてもらってねぇからな、苗字」

『それは私のセリフだよ。私が最初に質問したのに』

「さてとじゃあさっさと終わらせよっか」






結局、みんな私の事分かってくれない。同期とか友達とか、仲間とか、そんな言葉は言葉でしかない。夏油さんの言う通り。私のことを理解してくれる人なんていない。夏油さんだって私のことを理解してくれない。



あぁ、気持ち悪い





「鵺+蝦蟇 不知井底」

『……』




本当に彼は私を殺す気がないらしい。だからダメなんだよ。伏黒くんじゃあ、ぜんっぜんだめ。





『伏黒くん』

「なんだ、」

『それじゃあダメだよ』

「は…?」

『全然だめ、いらない。邪魔』

「恵、聞かなくていい」

「…………」






五条悟も聞かなくていいって言ってるのに、なんで聞くのかな。本当は五条悟のこと嫌い?






『殺す気がないならいらない。野薔薇と逃げてよ』

「俺は殺さない」

『だからいらないんだって』

「俺はまだ苗字の話を聞いてねぇ」

『……………』





話すつもりなんてないんだけど。私の苛立ちを感じ取ったのかさとるくんは私の後ろで伏黒くんに対して低く唸った。





「いらなイ?…イらない?」

『うーん、そうだね。どうしようか。伏黒くんの考えは読めないし、五条悟はうざったいし』





私が首を捻った瞬間、五条悟が私の目の前に現れて私の首目掛けて右手を伸ばした。それを回転して躱し、そのまま右足を五条悟のお腹目掛けて振り下ろすけどやっぱり無限が邪魔で辿り着かない。




『わぁっと、』




後ろから伏黒くんが飛んで現れたから慌ててさとるくんにカバーしてもらう。するとお腹に衝撃を感じた時には私は壁に埋まっていた。くっそ痛い。





『ゴボッ…、容赦、無さすぎ…、』

「殺すって言ったでしょ」






五条悟はプラプラと右手を揺らしていたから、殴られたんだなって気づいた。あの右手折れちゃえばいいのに。





『………うん、とりあえず伏黒くんが邪魔だね。伏黒くんからいこっか』

「させないよ。僕がさせると思うの?」

『五条悟の意思は関係無いし、アンタの相手はさとるくんがしてくれるよ』

「へぇ。でもその間名前は大切な騎士を失うんじゃない?近接戦で恵に勝てるの?」

『勝つ必要はないですよ。…さとるくんよろしくね?』

「マかせてぇええ!!」





私からさとるくんは離れると両手を伸ばして五条悟に向かって行った。流石に五条悟とはいえさとるくん相手なら簡単には祓えない。そもそも祓わせないけど。





「…………」

『さて、伏黒くんの相手は私だよ』

「………オマエに何があったのか、無理矢理にでも聞き出すべきだった」

『…ん?何の話?』

「……自分の事ばっかりで、オマエに気づけなかった。あの時の俺は津美紀の事で頭がいっぱいだった。…でも、今は違ぇ。ちゃんとオマエに向き合える。だから話してくれ。何があったんだ」

『……………………あ、話し終わった?』





伏黒くんは時々話が長い。飽きちゃうよ。地面の砂利数えてたら話は終わってたみたいだ。良かった。砂利の次は砂を数えちゃう所だった。





『流石のさとるくんも五条悟相手じゃあ厳しいだろうから早く終わらせよ』

「………………オマエは、何になりたいんだ」

『……………また質問?なに?時間稼ぎ?伏黒くんって意外と意地悪だね。私急いでるんだけど』

「時間稼ぎでも意地悪でも無い。純粋な疑問だ」

『なら聞くけど伏黒くんはなんで呪術師なんてやってるの?』

「…………俺は、………」

『私、伏黒くんの考えは読めないから答えてくれないと分からないよ。五条悟ならすぐに考え読めるんだけど。今はどうやってさとるくんを祓って私を殺そうか考えてるよ。本当に嫌な男』

「……俺は、幸せにしたかった。津美紀を、……俺の家族を」

『そっか。意外と理由があるんだね。ちなみに私はこうして暴れてる事に特に理由はないよ。無理矢理理由をつけるなら神様に会いたいから』

「………また、神様か」

『うん。私を作ってるのは神様だから。やっぱり私にはあの人しか居ないの』




私が神様を思い浮かべて恍惚の表情を浮かべると伏黒くんは眉を寄せて唇を噛んでいた。そんなに理由が無いとダメなの?理由ってそんなに大事?誰かの為なら立派なの?誰かの為じゃないと立派じゃないの?人としてイケナイ事?


なら自分の為の私は人間じゃないの?





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