愛も憎悪も白い皿の上






お昼を少し過ぎた頃、珍しく上機嫌の私は鼻歌を歌いながら教室を目指していた。そして教室に辿り着いて扉を開くと丁度五条先生の授業だった様だ。全員が扉を開けた私を見ていた。あれだよね、学校で遅れてきた子が目立っちゃうやつ。




『おはようございます』

「名前が任務だったのは知ってるけど、あの程度の任務、名前ならほんの数時間で終わったはずだよ。今まで何してた?」

『遅れてすみません』

「………僕は何してた≠チて聞いたんだよ。質問に答えて」

『だから任務です』




私が答えると五条先生はフッと表情を消した。無表情を通り越して少し機嫌悪そう。私とは正反対だ。




「まっ、まぁまぁ!五条先生!たまにはいいじゃん!苗字も何か用事があったんだよな!」

「そうよ!レディに執拗く質問は最低よ!先生!」

「君たちは黙ってて」




五条先生の言葉に虎杖くんと野薔薇は口を噤んだ。私は笑みを崩さないまま席に着いて五条先生に向かって口を開く。





『まぁまぁ、そんなに怒らないでくださいよ』

「まだ僕の質問に答えてないよ。何してた?」

『どうしてそんなに気になるんですか?』

「むしろなんでそんなに隠したがるの?」




五条先生は少し笑みを浮かべると、質問に質問で返した。そういうのは良くない。





『質問に質問で返すのは感心しないなぁ、悟=x




私がそう言った瞬間、五条先生が消えて私の首元には先生の手がかかりそうになっていた。本当に良かった。さとるくん≠ェいてくれて。





「五条先生!?」

「何してんのよ!」




虎杖くんと野薔薇の焦った様な声が聞こえたけど、そんなのはどうでもいい。それよりも五条先生は少なからず驚いてるだろうな。自分の手が私に届いていないことが。五条先生の手は私の首元数センチ前で止まってる。まるで、無限のように。




『まぁ、無限じゃないですけど』

「……随分と、僕の知らない間に呪霊の扱いを覚えたものだね」

『扱い方…?そんな言い方やめてください。さとるくんは違うんだから』





すると私の後ろから黒いモヤが生まれてそこから真っ白な2本の腕が私を抱きしめるように両脇から五条先生の手を掴もうとする。けどそれよりも先に勘づいた五条先生は手を離した。残念。空を切った白い腕はそのまま私の首に手を回して私を抱きしめる。





『今、本気で殺そうとしましたね。先生なのに』

「生徒を本気で叱ることも先生の役目だよ」

『でも今のは凄くいい判断だと思います。殺しに来なかったら危なかったですよ』




腕を撫でると嬉しそうにギュッと力が込められた。本当に愛おしいなこの人は。





『でもやっぱり生徒を殺そうとする先生なんて有り得ないですよね。しかも私は何もしてないのに』

「やっぱりあの時にちゃんと話≠しておくべきだったね」

『いつまで経っても力でねじ伏せようとするんですね。変わらないね、悟=x

「………名前、オマエ誰と会ってた?」

『……さぁ?誰でしょう』




五条先生は珍しく怒っている様だったけどそんな事はどうでもいい。私はやることがあるんだから。




『虎杖くん』

「え?…な、なに?」




私は席を立ち上がって虎杖くんに近づくと流石に私がおかしい事に気づいたのか1歩後ろに下がってしまった。うん、ショック、ショック




『虎杖くんはいい子だから好きだよ』

「え?いや、俺も苗字のことは好きだけど…、んっ!?」

「………は?」




私は虎杖くんの首裏に腕を回して唇を重ねて、虎杖くんに呪力を流し込む。伏黒くんの間抜けな声が聞こえて珍しいななんて思った。




『…………』

「……………面白いことをするな小娘」

『初めまして、苗字名前です。よければ一緒に五条悟と戦って欲しいんですけど』

「確かに面白いが…、腹立たしいな」

『ガァア…ッ!』







宿儺は虎杖くんの中から出てくると私の首を右手で掴むとギリギリと締め上げた。





『ガッ…ッ、』

「オマエの様な小物がいつから俺に命令できるようになった…?」

「やめろ宿儺…!!玉犬…!!」




段々と視界が霞んでいって唇の端から何かが溢れた気がした。多分泡だと思う。





わがまま言ってママを困らせないで


オマエが見てないんじゃないのか


神様がいるなら善人が不幸になるわけが無い


そもそも俺は神様なんて信じてない。神様が存在するならそいつは呪霊みたいなものだろ。人の信仰する気持ちから生まれたただの呪霊だ


俺は苗字を愛してる






あぁ、うるさいな。そんなのが聞きたいんじゃないんだよ。




お前、なんでそんなにヘラヘラしてんだ?


お前気持ち悪ぃな


お前呪術師に向いてるぜ






うん、確かに私は術師に向いてた。やっぱり神さまの言うとおりだね。





お前が強くなったら俺が殺しに行ってやるよ





私強くなったよ、だから早く、





私を殺しに来て







『…………』






ドサリと体が床に落ちた感じがする。痛みは無い。息もできない。ただ視界が霞む。





「苗字!苗字…!」

「名前!」

『…………』

「次は殺す」




宿儺の低く威嚇する様な声が聞こえて、これでいいんだって再確認できた。










『……ヒュッ…ッ、……ゴホッ、ゴホッ』

「苗字!」

「名前!」

『ゴホッ…、ガッ、…ハッ…、ゴホゴホッは、はは……あはははっ…!!』





私は咳き込みながら笑うと私の近くにしゃがみ込んでいた伏黒くんと野薔薇は私を見て目を見開いた。上体を起こして喉を抑えるとチリチリとした痛みが走った。でも、これでいい。





『走馬灯…!?あははっ…!最っ高の気分っ!』






視界の端に虎杖くんが倒れているのが見えた。まぁ、彼のキャパでは有り得ない呪力を送り込んだから仕方ない。そうそう仕方ない。





「なるほどね、悠仁に気を失わせて宿儺をわざとキレさせて封じたわけね」

『1番怖かったのは宿儺と戦うこと…、呪いでも神様は殺したくないからね』






私はどんな理由があっても神様は殺さない。でも、他の人たちが最強と崇め称える五条悟という偶像の神様は、私の神様じゃないから、どうなっても知らない。



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