殺意の砂糖漬け
私はパシャパシャと手のひらを川につけて遊んでいると少し後ろで虎杖くんと野薔薇が何やら話しているようだった。
「それでも俺が殺した命の中に涙はあったんだなって」
「……そっか、じゃあ共犯ね。私達」
どうでもいいから、早く帰りたい。私の帰るべき場所に。
「「ふっ…伏黒?」」
「おっ、戻ったか。良かった無事で」
「ビッ、ビビったーっ!」
「死んでんのかと思ったー!」
「声量落としてくれ」
「宿儺の指持って寝こけるなよ」
「なんで指のこと知ってんだよ」
「それ聞く余裕ある?」
「ねぇ。応急で封印してもらわねぇと」
「俺食べようか?」
「残飯じゃねーんだよ」
「でも一番元気そうなオマエに渡す。念を押すが食うなよ」
受け取ろうとした虎杖くんの手のひらに口が現れて指を飲み込み大騒ぎになっていた。私はその間も川に手をつけて遊んでいた。楽しいね。
「クラァッ!オマエらぁ!」
「あ、新田さん」
「ブチ切れてるわね」
「じゃ、帰るか」
ようやくか、と思い腰を上げると虎杖くんに支えられた伏黒くんが私を呼んだ。
「苗字、」
『………』
「怪我は無いみたいだな」
「あっ!そうよ!名前!アンタ何してたのよ!」
「苗字だって調子悪い日もあるだろ!全員無事だしとりあえず帰ろうぜ!」
「……苗字?」
振り返らない私を不思議に思ったのか伏黒くんがもう一度私を呼んだ。ゆっくりと振り返って3人と顔を合わせる。
『……うん、大丈夫。戻ろうか』
私≠ヘ大丈夫、笑えるよ。だから、どうしてアナタはそんなに驚いた顔をしてるの。
まぁ、どうでもいいけど。
******
「苗字、何かあったのか」
八十八橋から帰ってきた次の日、伏黒くんは家入さんに治療をしてもらったのか怪我が治っていた。任務に向かう為に廊下を歩いていると、後ろからそんな伏黒くんに声をかけられて足を止めた。
『何も無いよ?伏黒くんこそ怪我は大丈夫?』
「……俺が聞いてるのは苗字の状態だ」
『だから私は何も無いよ。怪我も無いし。むしろ準一級なのに何もしてないなんて、恥ずかしくなるよ』
私が頬を掻いてそう言うと、足音が1回したから伏黒くんが1歩近づいたんだと思う。後ろを見てないから分かんないけど。
「……ならなんでこっち見ねぇんだよ」
『任務行かないといけないの』
「苗字、」
『伏黒くん、』
私はゆっくりと振り返っていつも≠フように笑った。
『私はもう大丈夫だよ。……だから、もう、大丈夫=x
私にはもう、アナタはいらない。