どしゃぶりの真ん中で
川を渡ると辺りはさっきまでとは一変していた。そこらじゅうで呪霊の気配が少なからず感じられる。
「出たな」
「祓い甲斐がありそうね」
「あ゛?なんだぁ?先客かぁ?」
声を聞いて後ろを振り返ると瞳のような虚空から血を流している呪霊が現れた。私たちは二手に別れて呪霊の相手をしていた。
『………』
二手って言っても、私は何も出来てないけど。
「苗字!大丈夫か!?」
『…………』
私のすぐ隣を血を流した呪霊が通り過ぎたけど、私は何もしなかった。虎杖くんはそんな私を見て、すぐに黒い穴に飛び込んだ呪霊を追った。その時、何故か虎杖くんに腕を掴まれて無理矢理連れていかれた。
******
「はーい、また僕の勝ちー。珍しいよね、恵が僕に稽古を頼むなんて」
五条先生は少し笑いながらそう言った。俺だって嫌だけど、背に腹は変えられない。
「恵、本気の出し方知らないでしょ」
「は?」
五条先生の言葉に腹が立って自分でも低い声が出たのが分かった。
「俺が本気でやってないって言うんですか」
「やってないんじゃなくてできてないんだよ。例えばさぁこの前の野球。なんで送りバントしたの?」
五条先生は自分や虎杖なら常にホームランを狙うと言った。そんな奴が多いから送りバントをしたんだ。けれど五条先生の話は止まらなかった。
「他の術師との連携は大事でしょ」
「まぁね。でも周りに味方が何人いようと、……死ぬときは独りだよ」
五条先生は俺の額に人差し指を弾いて当てると、言葉を続けた。
「死んで勝つ≠ニ死んで“も”勝つ≠ヘ全然違うよ恵」
五条先生はそれに、と言葉を続けて苗字の名前を出した。
「それに本気で名前が大切なら、もっと本気にならないと無理だよ。現に僕は君たちがお付き合いしている事を知ってるけどそれが続くとは思ってない」
「…は?」
「予想ではもって2ヶ月って所かな」
「……どういう意味ですか」
「名前は愛を欲してる。僕が見ても分かるほどに。それはもうイカれてるって程に。きっとすぐに名前は恵の愛情じゃあ満足できなくなる。これは断言できる」
「………」
「名前をずっと自分の隣に縛り付けておきたいならもっとみっともなくならないと」
「…みっともなく?」
「本気でやれ、もっと欲張れ」
ふと意識が戻ると目の前にはあの呪霊が居た。俺は何秒気を失ってた?玉犬は破壊…、いや術式が解けたか。……ここまでだな
「布瑠部ーーー」
あぁ、面倒くせぇ
「やめだ」