彼方から降る歌
『………………痛い、』
「………………………悪かった」
伏黒が謝罪を口にすると女子生徒はハッとした表情になって自分の体を抱きしめるように両腕を胸の前でクロスさせて肩を抱いていた。
『まっ、まさか!ここで乱暴をしようと…!?』
「………」
『……冗談だよ、そんな怖い顔しないで…』
「……はぁ…、」
伏黒は溜息を大きく吐き出すと、扉に背を預けて小さく「……呪術高専の伏黒だ」と言葉を零す。その言葉に女子生徒が口を開こうとした時にまた伏黒が被せるように言葉を連ねる。
「オマエには興味無い。簡単に説明するから聞け。今から話す事を信じようと信じまいとどうでもいい。けど事実だ」
『……え、』
「この校舎には準一級…、もしくは一級の呪霊が居る。俺が祓うのは難しい」
『…いっきゅう?じゅれい?』
「呪いだ。認めたく無いが俺では力が足りない。今から窓に連絡して呪術師に来てもらうように伝える」
『…まど?のろい?………え?』
「信じなくてもいい。ただオマエは俺の足でまといにならずにこの校舎から出る事を考えろ」
『…色々傲慢すぎない…?』
「何でもいい」
伏黒は吐き捨てる様に言うとスマホ取り出して伊地知に電話をかけた。するとワンコールしか鳴っていないのに伊地知が「はい」と声を発した。
「伊地知さん、この校舎には一級に並ぶ程の力を持った呪霊が居ます。高専には今、五条先生が居ましたよね?来て貰えませんか」
「あ…、えっと、」
「なんですか?あまり時間が無いので手短にお願いします」
「…五条さんは、…その、」
「なんですか」
「…………喜久福を買いに…、」
「…………………は?」
「プチ旅行行ってくる、と…、」
「………」
「もっ、勿論止めたんです!止めたんですけど…、ついでに仕事もしてくると言って…、」
「………五条先生が居ないのは分かりました。他の人でも良いです。出来れば準一級以上の呪術師の派遣をお願いします」
「が、頑張ります…!」
伏黒はそれを伝えるとスマホの電源を切ると、それを確認した女子生徒は小さく口を開いた。
『……信じる、信じないは置いておいて…、とりあえず、えっと、ふしぐろ、くんだっけ?』
「あぁ」
『ふしぐろって、伏せるに黒いでふしぐろ?』
「…あぁ、」
伏黒は心の中でどうでもいいだろ、と悪態をつきながら相槌を返すと女子生徒は小さく頷いて言葉を続けた。
『…とりあえず、伏黒くんは信じてみる』
「………」
『呪い…、とか、じゅれい?とかはまだよく分からないし、信じる事は出来ないけど…、でも、伏黒くんの事は信じる』
「……そうかよ」
『とにかくこの学校から出ないといけないんだよね?』
「この校舎には呪霊が溢れてる。無闇に出る事は出来ない」
『私は苗字名前、よろしくね』
「……時々感じてはいたけどオマエ人の話聞いてるか?」
『…え?き、聞いてるよ?』
「………」
『まだ私の名前言ってなかったから…』
「………そうだな」
伏黒は考える事を止めて適当に相槌を打って小さく「玉犬」と呟くと伏黒の足元から白色と黒色の式神が現れた。けれど女子生徒ーー名前には見えていないのか首を傾げていた。
「……呪霊が近づいたらこいつらが教えてくれる」
『…………こいつら?』
「…俺の式神だ」
『………………』
名前は目を凝らしたり、擦ったりしたがやはり見えずに方を落とした。
『……やっぱり何も見えないや…』
「普通は見えねぇんだよ」
『でもとりあえずその、式神?のおかげで安心って事だよね?』
「一先ず、はな」
伏黒がそう呆れたように言った瞬間、玉犬が伏黒の後ろの扉に向かって吠え出した。伏黒は瞬時に扉から離れて名前を守る様に前に立つ。