あのひのぼくよ、おぼえているか
「6月 盛岡 金田太一、8月 横浜 島田治 9月 名古屋 大和広」
『随分と距離がありますね』
補助監督の新田さんの説明を助手席で受けていると虎杖くんが私も気になっていた事を聞いてくれた。
「なぁなぁ自動ドアって呪霊のせい?」
「センサーじゃなくてドアオペレーターの方が呪霊の影響でバカになってたみたいっス」
『なるほど…』
すると新田さんは3人の共通点は同じ中学校だったと言った。つまりは昔3人が同じ呪いを受けたっていうのが1番濃厚だ。
「っていうと昔3人が同じ呪いを受けて、時が経ってそれが発動したって感じ?」
うん、やっぱり私は合っていた。答え合わせが出来て良かった。そして私たちはさいたま市立浦見東中学校に来ていた。すると分かりやすい不良がいて野薔薇が殴って更生させると言った。GTOかな?
「おっ、お疲れ様です!!」
『っ、…急に大声出さないでよ…』
私が驚いていると何も言わない伏黒くんが気になって顔を上げると、どことなく気まずそうだった。
「卒業ぶりですね伏黒さん!!」
「「『っ!?』」」
「俺、中学、ココ」
伏黒くんの思ってもみなかった回答に野薔薇と虎杖くんは頬を掴んでいた。私はただただ驚いた。
「何した、オマエ中学で何した!」
「おいバカA、バカB、伏黒に何された」
「俺ら…、っていうこの辺の不良半グレその他諸々…、伏黒さんにボコられてますから」
「………ボコッ……た」
「なんでさっきからカタコトなんだよ!」
「何してんの?オマエ何してんの?」
『やっぱり伏黒くんは不良だったんだ…!』
「名前はなんで嬉しそうなの?」
やっぱり私は合っていた。答え合わせが出来て嬉しい限りだ。すると校務員さんと思われる男の人が伏黒くんに気づいて声をかけると伏黒くんは少し照れくさそうに挨拶していた。ちょっと可愛い。
「何が聞きたい?」
「変な噂、黒い噂、悪い大人との付き合い…」
「「やーい問題児〜」」
『あの、2人ともそろそろやめておいた方が…』
伏黒くんをいじろうとする野薔薇と虎杖くんは伏黒くんが上げた右手に気づいて居ないのか言葉を続けた。すると勢いよく振り下ろされた右手が虎杖くんの左頬に当たった。それはもう綺麗に。
『ぎゃあ!!』
「苗字ごめん!大丈夫か!?」
「伏黒のせいで名前が!」
私にぶつかった虎杖くんを伏黒くんは見ずに首根っこを掴むと地面にペイッと捨てた。
「あとバチ当たりな話とかあれば」
『少しは虎杖くんを心配してあげて…』
校務員さんの言葉に不良2人が八十八橋のバンジーという単語を出した。バンジーは苦手。あれ怖すぎない?それを度胸試しでやるなんて。既に強心臓
「どこの部族よ」
「俺よりバカって意外といるよな!」
「紐どうすんだよ」
『……私バンジーはちょっと……』
話がある程度まとまってとりあえず向かおうとした時、校務員さんが伏黒くんを呼び止めた。
「伏黒君、津美紀君は元気か?」
「……はい」
伏黒くんの表情と間が、何故か酷く気になった。
*******
「くあぁぁあぁ」
「ちょっと、呪霊の呪の字も出ないじゃない」
『………お腹すいちゃった』
「…コンビニ行くか」
『賛成!』
「……伏黒、アンタ名前に甘すぎ。コンビニは行くけど」
「ならいいだろ…」
私は唐揚げ棒を袋から取り出して口に含むと、唐揚げの油が胃に染みて幸せを噛み締めた。
『伏黒くんはサンドイッチ?少食だねぇ』
「飯は食堂で食う」
『…………なるほど、その手があったか!…………伏黒くん、』
「…………はぁ、」
私が唐揚げ棒を傾けると伏黒くんは溜息を吐きながらも1つ食べてくれた。夜ご飯まで少しお腹を減らしておかないと。
「流行ってたのってバンジーっスよね。飛び降りる≠チて行為が鍵なんじゃないっスか?」
「それはもう虎杖で試しました」
『ちなみに私は止めました』
すると伏黒くんを呼ぶ声がして振り返ると、不良Aの人かBの人か分からないけどリーゼントの人が自転車で現れた。2人乗りで。やーい犯罪者。
「私、行ってるの中2の時、夜の八十八橋に」
リーゼントくんのお姉さんの一言で空気が変わった。そして新田さんがその時他に誰が居たかを聞いてくれた。
「あの時、津美紀さんも一緒にいたよ」
「……」
『…………』
突然の告白に知っている全員が凍りついた。ただ1人を除いて。
「そうか。じゃあ津美紀にも聞いてみるわ」
伏黒くんは何でもないようにそう言ったけど、何でもないようなのがいちばん怖いと思った。
「伏黒」
「………」
「伏黒!!しっかりしろ!まずは安否確認だろ!」
「…大丈夫だ。悪ぃ、少し外す」
本当に自分が嫌になる。何も出来ない自分にも、…私にも。
「津美紀の姉ちゃん無事だったか?」
「問題ない。それより任務の危険度が吊り上がった。この件は他の術師に引き継がれる。オマエらはもう帰れ」
「オマエらって伏黒は?」
「俺は武田さんに挨拶してくる。ほら行け!」
伏黒くんは虎杖くんと野薔薇を新田さんの車に押し込むと私を見た。
『………私にも先に帰れって言う?』
「…先に帰ってろ」
『…………そっか、分かった』
車の助手席に自ら乗り込むと虎杖くんは新田さんに停まって欲しいと伝えていた。そしてすぐに虎杖くんと野薔薇は車を降りたけど、私は降りられなかった。
『………』
「…苗字?行かねぇの?」
『……………』
「名前?」
野薔薇に手を引かれて、車を降りると2人は迷わず八十八橋へと向かった。何となく2人の後をついて行くと、やっぱりそこには彼の背中があった。
「自分の話をしなさ過ぎ」
「だな」
「ここまで気付かないとはマジでテンパってるのね」
「別に何でも話してくれとは言わねぇけどさ。せめて頼れよ、友達だろ」
虎杖くんの言葉に伏黒くんは津美紀さんの話をした。彼女が寝たきりのことも、今すぐ祓いたいことも。
『……………』
私だけ、そこにはいけない。