ひたむきな天使たち
「っつーわけでさ色々あったし人も死んだけど、どうする?続ける交流会」
『…え?』
五条先生の言葉に途中参加の私は目を見開いた。けれど虎杖くんは悩んでいるようだった。後ろから低い声が聞こえて振り返る。
「当然続けるに決まっているだろう」
その後は東堂先輩の長々しい説明を始めたから私はささくれをいじっていると途端に東堂先輩が少し大きな声で話し始めるから顔を上げると視線が合った。
「3つ、学生時代の不完全燃焼感は死ぬまで尾を引くものだからな」
なんで私を見るの?意味が分からず見つめ返すと目の前に手のひらがかざされて、細かい手のひらの手相が見えた。顔を斜めに上げると伏黒くんが私の視界を遮っていたらしい。でも伏黒くんとは視線が合わなかった。なんか伏黒くん東堂先輩睨んでない?
「個人戦の組み合わせはくじ引きか?」
「え?今年は個人戦やんないよ」
虎杖くんがくじ引きをすると中には野球と書かれていたらしい。私が参加した意味はあるのかな…。
『………ユニフォーム着ないとダメですか?』
「むしろなんで嫌がってんだよ」
『……………このユニフォーム体の線凄く出るんですけど』
「うるせぇな。さっさと着替えろ。時間ねぇぞ」
私だって真希さんや野薔薇みたいなスタイルだったらすぐに袖を通す。逆に2人がいなければ私だって気にせず着れたんだ。プロポーションお化け。
『………』
「いつまでモジモジしてんのよ!」
『してないよ…!』
確かに野薔薇の背中に隠れてたけど…!私は勇気を振り絞って野薔薇の隣に立つと、やっぱり絶望した。
『……私、野薔薇になりたい』
「ふんっ、よく分かってるじゃない」
球場にたどり着くと何故か東京校のベンチに東堂先輩が居て、間違えたかなって思ったけど他のみんなが居たからやっぱり合ってるみたい。
「………苗字」
『…え?…は、はい、なんでしょう』
東堂先輩は私に気づくとベンチから立ち上がり私の前に立った。思ってたより背が高くて大きい。威圧感が凄い。
「伏黒と付き合っているそうだな」
『……え?………………はい、』
「………本当なのか」
『ほ、本当、ですね…』
東堂先輩は唇を噤むと、私を上から下を見た。なんかエロおやじみたいで少し嫌な気持ちになった。
「…………やっぱり俺は苗字が諦められない」
「諦めてください」
『伏黒くん…!』
突然影がさしたと思ったら伏黒くんが私の前に立ってくれた。白いユニフォームに身を包んだ伏黒くんはオセロみたいだった。
「東堂先輩は身長が高くて尻がデカければ誰でもいいんですよね。じゃあ苗字の事は諦めてください」
『……え!?』
私がお尻を抑えると、東堂先輩は眉を寄せた。お尻が大きくて悪かったですね!野薔薇と真希さんが小さすぎるだけだし!
「……最初はそうだ。だか、俺は苗字に惚れたんだ。最初は外見だったが今は全てが好きだ」
「……………苗字のこと何も知らないでしょう」
「これから知っていけばいい話だ」
『………………私、そんなにお尻大きくないもん』
「………東堂先輩じゃ苗字は無理ですよ」
「なに…?」
「アンタじゃあ苗字の重さに耐えられない」
『私そんなに重くないもん…!お尻が大きいだけで他は小さいもん…!!』
「違ぇよ。物理的な話じゃねぇしオマエ黙ってろ」
伏黒くんは何故か怒ってたけど怒りたいのは私の方だ。彼氏に重たいなんて言われたらショックを受けて寝込んでしまう。……食事制限頑張ろう。
伏黒くんに手を引かれて東京校のベンチに戻って彼は腰を下ろしたけど私は立ったままお尻を両手で抑えた。
『……伏黒くん、』
「…なんだよ」
『……私そんなにお尻大きい?身長は、まぁ、野薔薇よりもあるし低くはないの分かってるんだけど…。お尻そんなに大きいの?私ヤバい?』
「……………」
私の質問に伏黒くんは眉を寄せた。そっ、そんな不機嫌になる程だった…!?そんなに私のお尻大きいの…!?気づかなかったし、気づきたくなかった。
「………別に、普通だろ」
「やーい!ムッツリー!」
「釘崎黙れ」
プップーと笑いながら言った野薔薇に伏黒くんは見もせずに答えると、頭をガシガシと掻きながら小さく呟いた。
「……俺はそれくらいが、いいと思う」
『………本当?』
私が座って顔を寄せると伏黒くんは少し上体を後ろに逸らしたけど更に顔を寄せて聞いた。
「……本当」
『本当に本当?』
「しつけぇな。………本当に本当だ。オマエはオマエだろ」
面倒臭そうに照れくさそうに呟いた伏黒くんに嬉しくなって笑って体勢を戻した。
『伏黒くん、大好き』
「………おう」
すると野薔薇がそこは俺もって返しなさいよって言ってたけど、伏黒くんの事はちゃんと分かってるから大丈夫だよ。