悪い子のためのパレード






任務帰りの飛行機の中で野薔薇からメッセージが届いた。



ーー伏黒が怪我した




野薔薇は小さな怪我では連絡して来ないと思ったから飛行機が着陸した瞬間悪いなとは思ったけどダッシュで帰らせてもらった。乙骨先輩はまだ任務があるみたいで向こうに残った。




『伏黒くんっ!!』

「あれ?苗字?どったの?そんなに急いで」

「名前おかえり!海外土産は?」




扉を開けると虎杖くんと野薔薇、ベットに座っている伏黒くんがモシャモシャとピザを召し上がっていた。いや、なに召し上がってるの。その前に怪我人にピザってどうなの?というか酷い怪我は?




『……………………野薔薇、』

「なに?っていうか海外土産」

『嘘吐いたの!?』

「嘘?何の話?」

『伏黒くんが大怪我したって!』

「そんなこと誰も言ってないわよ。怪我したってちゃんと事実を述べたまでよ」

『………………』

「アンタが勘違いして勝手に慌てたんでしょ」



確かに。





「…………」

『……えっと、ただいま?』

「………おかえり」

『怪我、大丈夫?』

「家入さんに治療してもらった」

『…そっか』

「それにしても名前タイミングギリギリだったわよ」

『タイミング?』

「さっきまで虎杖と東堂先輩が鬼ごっこしてたの」

「そんで撒いて逃げてきたってわけ!」

『…別に東堂先輩が居ても私関係なくない?』

「…………苗字、オマエ…、」

「……諦めなさい、虎杖。名前は天然じゃないの。ただ自分に自信が無さすぎるのよ…」

『………え?』




伏黒くんはピザを飲み込むとベット脇にあった丸椅子を移動させてくれた。そこに座ると伏黒くんがじっと私を見た。




「…………オマエ、」

『ん?』

「虎杖のこと驚かないんだな」

『………………あ、』

「…………………えへっ」




私が冷や汗をかくと虎杖くんは舌を出して笑った。そうしたら伏黒くんが私たちを睨んだ。




「知ってたんだな…」

『…………………うん、』

「ちっ、違うんだって!苗字は悪くねぇんだって!」

「虎杖〜、それ浮気がバレた時に女を庇う奴の言い訳みたいよ」

「えぇ!?」

「……任務が無いのに居なかったのは虎杖と会ってたって事か」

『会ってたっていうか…、訓練に付き合ってたっていうか…』

「ごめんね…伏黒…」






虎杖くんが謝ると伏黒くんは視線を逸らして溜息を吐いた。私は伏黒くんの袖を掴んで小さく謝った。




『………黙ってて、ごめんね?』

「…………………………別に、理由が理由だしな」

「チョロっ!伏黒チョロっ!!」

「……うるせぇ」




野薔薇の言葉に伏黒くんは青筋を浮かべると、フッと表情を緩めて私の頭に手を置いた。





「…別に怒ってねぇからそんな顔すんな」

『…うん、ありがとう』





その後野薔薇に私の前でリア充すんじゃねぇ!って怒られた。理不尽では…?




「それに伏黒がキレてんのは黙ってた事じゃなくて自分より虎杖を優先したことでしょ?ちっさい男は嫌われるわよ〜」

「違ぇよ。オマエらいつまで居るんだよ」

「え?だって伏黒のこと心配だし…」

『でも、確かに怪我してるのに長居はあれだよね』

「私もそろそろ帰るわ。名前から海外土産もらってないし」

「そっか…じゃあ俺も部屋戻ろっと」





みんなで立ち上がって部屋に戻ろうとした時、腕が引かれて足を止めて振り返ると伏黒くんが私の手首を掴んでいた。




「………あ〜はいはい。俺たちの邪魔すんなって事ね。ウザッ」

「……………」

「じゃあ伏黒、苗字また明日なー!」

『うん!また明日!』

「名前明日の交流会は出るんでしょうね!?」

『出るよ!あと私の部屋に海外のお土産届けてもらったから好きに取っていって!』

「さっすが私の名前!」






現金な言葉を残して消えた野薔薇に伏黒くんは唇を尖らせて小さく呟いた。





「…………苗字は釘崎のじゃねぇだろ」

『そもそも私は私のものです』

「…………………」

『え、何その不満顔…』





もう一度丸椅子に腰を下ろしても伏黒くんの手は離れなかった。まだ帰らないから離しても大丈夫なのに。信用無いな。




「………明日、交流会出るんだな」

『何度も2日目は出るよって言ったよ?』

「東堂先輩居るぞ」

『そりゃあ京都姉妹校交流会だからね』

「多分、まだ諦めてねぇ」

『え?何を?乙骨先輩が来るのを信じてるの?流石にもう間に合わないよ』

「………もういい」

『えぇ…!?』





伏黒くんは呆れたようにそう言うと私の手首を掴んでいた手を手のひらに移動させて私の手を包み込んだ。




「苗字」

『ん?なに?』





名前を呼ばれて手のひらを見ていた視線をあげると、伏黒くんのもう片手が後頭部と首筋の間に置かれて引き寄せられる。髪の間に指が差し込まれてちょっとゾワッとした。





『…………いつも、突然するね』

「言った方がいいのか」

『………………いや、言わなくていいかな』






伏黒くんは少し首を傾げるとまた瞼を閉じて優しく私を引き寄せた。
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