恋からの退化




私には神様がいた。きっと他の人からしたら神様からは程遠いくらい最低な人だった。でも、それでも私にとっては何よりも神様だった。




『……恋愛ってさ、なんでするんだろうね』

「は…?」

『恋愛、男女間の恋いしたう愛情って意味なんだって。でもおかしくない?その理論で言ったら同性愛は恋愛じゃないの?恋い慕うって何なの?愛情ってなに?ってならない?』

「………」

『恋愛に関するホルモンは沢山あるんだけど特に有名な2つがあってドーパミントとオキシトシンっていうんだけど、その2つはセックスでも出るんだって。なら恋愛なんてする必要ないじゃない?別にセックスさえすれば恋愛にも似た感情を感じる事ができる。だから体から入る恋愛もあるって言われるんだよね』

「………何が言いたいんだ」

『………恋愛なんてただのセックスの前の遊戯で人類はただ子孫を残す為だけに生きてるってこと。それを綺麗に、聞こえのいい恋だの愛だのって言い始めて自分で子孫を残す相手を選んでるってだけ』





伏黒くんは私が急に何の話をしだしたのか分からなくて眉を寄せて少しだけ唇を尖らせていた。色々面倒な言葉を使って言ったけど凄く簡単な事だよ。





『つまり、恋愛なんて馬鹿らしいってこと』

「…………」

『恋愛なんて意味も無ければ、ただのホルモンによる勘違い』

「…………」

『だから伏黒くんが私を好きだって思ったならそれは勘違い。たまたま状況が重なってホルモンが活発になった時に一緒に居たのが私だっただけ。その時一緒に居たのが野薔薇なら、きっと野薔薇を好きだってなってたよ』

「……………で?」

『…………で?』

「苗字は俺と付き合ってくれるのか」

『…………伏黒くん、』

「なんだ」

『私の話聞いてた?』

「聞いてた」

『嘘でしょ。寝てたでしょ』

「寝てねぇ。目開いてただろ」

『開けたまま寝れるんでしょ』

「だから寝てねぇ」





伏黒くんはなんでもないように、本当に私の話を聞いていなかったのか、今日の晩飯なに?みたいなノリで告白の答えを促した。そもそも告白されてないけど…。





『聞いてたなら私が何を言ったか言ってみて』

「苗字とセックスできるかって事だろ」

『そんな話してませんけど…!?』





伏黒くんは至極真面目そうに言うから結構驚いた。それに伏黒くんの口からそんな単語が出てくると思わなかった。言い出したのは私だけど…!





『…………それにそれだけの相手なら選り好みはあんまりないと思うんだけど。特に男の人は』

「偏見だろ、それ。俺は誰彼構わずは絶対にしない」

『……今の伏黒くんは、好きじゃない、』




私がそう言うと伏黒くんは目を見開いた。私自身も自分の言葉に驚いた。少なくとも今みたいに冷静な私≠ヘ人を否定することなんて言わないから。





「…………理由はなんだ」

『好きな人がいるのに、他の女の人に付き合ってなんて言う人信用出来ない』

「さっきから何の話だ。なんでそんな話になるんだ」

『………揺るがない人間性がある人』

「…………」

『……その時思い浮かんだ人が居るんじゃない?』





私が言うと伏黒くんはまた目を見開いた。ほら、図星。あァ嫌だ。結局伏黒くんも私を見てなんてくれない。好きなんて口先だけ。まぁ、口先ですら言ってもらってないわけだけど。




「……それは、」

『伏黒くん、私ね神様に会いたいの』

「はァ?」

『神様が私が強くなったら殺しあいに来てくれるの。だから恋愛にかまけている場合じゃない』

「…………」






神様は言った。お前が強くなったら俺が殺しに行ってやるよ、と。だから私は強くなった。でもまだ神様は殺しあいに来てくれない。まだ足りないんだ。あの人が殺しうる人間になれてないから。





『…………好きな人って神様みたいじゃない?』

「神様…?」

『その人を知って、好きになって、その人の理想になりたがって、ずっと頭から離れない。それって信仰に近いと思うの』





私は大嫌いな母親と同じ人を好きになっていたらしい。皮肉だよね。やっぱりどれだけ離れていても、血の繋がりは強いらしい。




『伏黒くんもいるんじゃない?伏黒くんの神様が』




私には居るよ。外道で最低で笑顔が怖い人。その人にも子供がいるって言ってたけど、お金の為に売ったらしい。笑って話された時は衝撃だったけど、私を見てくれれば何でも良かった。




「なら、俺を苗字の神様ってやつにしてくれ」

『………伏黒くん人の話聞いて無さすぎ』

「聞いてる」

『………嫌だよ。伏黒くんは私の神様にはしない。だって私のことを見てくれないのに、私だけ見てるなんてそんなの嫌』

「見てる」

『見てない』

「見てる」

『見てない。伏黒くんは私の奥に誰かを見てるんじゃないの?』

「苗字は津美紀とは似てねぇ」

『…………………いるんじゃん』





私が呟くと伏黒くんはお茶に口をつけた。よくこんな時にお茶が飲めるね。本当に神経が図太い。





『………伏黒くんは、欲求不満ってこと?』

「……急にどうした。話聞いてたか?」

『伏黒くんに言われたくない。』

「なにキレてんだ」

『キレてない。結局伏黒くんは女の人を抱きたいってこと?津美紀さんの代わりが欲しいってこと?』

「違う。代わりってなんだ。人をクソ野郎みたいに言うな」

『現に私の中だと伏黒くんの認識は改まって、クソ野郎だよ』




私の言葉に伏黒くんは不本意だと言わんばかりに眉を寄せた。知り合って数ヶ月、その顔にはもう慣れた。





『………わたしは、そんなの絶対に嫌。代わりなんて死んでも嫌。わたしは、……わたしは、』

「……苗字?」






わたしは、愛されたい≠だ。誰かに見て欲しいんじゃない。誰かに愛されたい=Bあぁ、これじゃああの女と全く一緒じゃんか。





あぁ、反吐が出る




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