花と傷、触りたい方を選んで
『あ、伏黒くんおはよう』
「はよ」
『昨日大丈夫だった?先輩たちの拷問』
「拷問…?……まぁ、別に平気だった」
『私はね〜、女子会したよ!足が痺れるくらい!』
「………それは、拷問だな」
朝食に向かうと伏黒くんとバッタリ会ってそのまま一緒に食事をとることになった。すると私より少しあとに起きた真希さんと野薔薇も食事に顔を出した。
「そういえば名前は交流会出んのか?」
『………2日目はどうにか出れるように交渉してみます』
「え!?名前出ないの!?観光出来ないじゃない!」
『……観光?』
野薔薇の言葉に首を傾げるけど、後ろからパンダ先輩と狗巻先輩の声が聞こえて顔を向けた。
「おはよう」
「すじこ」
『おはようございます』
挨拶をすると先輩達は律儀に頭を少しだけ下げてくれた。ご飯に戻ろうとした時パンダ先輩が私を呼ぶからまた顔を上げた。
「名前次の任務憂太と一緒なんだって?」
『はい!五条先生が乙骨先輩をお手本にしろって』
「名前は憂太に懐いてるよな」
『はい!乙骨先輩尊敬してます!』
私がそう言うと伏黒くんは眉を寄せて私を睨むけど、今は乙骨先輩に会えるのが楽しみだ。すると真希さんがそんな伏黒くんを見てニヤリと顔を歪めて野薔薇に耳打ちをした。そしたら野薔薇がニヤリと笑って伏黒くんの肩に腕を置いた。
「あらら〜?一丁前に嫉妬〜?」
「……重いしうぜぇ」
「名前も名前よ〜?」
『……え?私?』
「そんなキラキラした目で乙骨先輩の事尊敬してますなんて言っちゃって〜!」
野薔薇の言葉にパンダ先輩と狗巻先輩も何かを感じ取ったのか2人は私の両端に移動してきた。
「名前もしかして、」
「すじこ、すじこ」
「憂太のこと好きなのか〜?」
パンダ先輩の言葉に私は慌てて両手を左右に揺らして否定する。
『ちっ、違いますっ!違いますよっ、すっ、好きとかじゃなくて…!』
「………え?名前、アンタ…」
「待て名前!分かった!分かったからそんなに否定するな!余計に怪しく見えるぞ!なぁ、棘!」
「………」
「棘!?無視しないで!?」
本当に違うのに周りのみんなが慌ただしくするから余計にそれっぽく見えてしまうだけなのに。私がブンブンと首を振ると真希さんまで少し焦っているのか何故か伏黒くんの顔色を伺っている様だった。
『ほっ、本当に違うんですっ!す、好きとかじゃ…!』
「………」
伏黒くんは私を見て固まっていたけど、野薔薇が慌てた様子で伏黒くんの頭をペチペチと叩いていた。
「きっ、気にすることないわよ!伏黒!名前はみんなにあんな感じでしょ!?」
「……………………なんでお前にそんなこと言われないといけないんだよ」
『わっ、私!部屋に戻って準備しないとだから戻ります!良ければ残ったの食べてください!ご馳走様でした!失礼します!』
私が足早に食堂を出ると、食堂は何故かさっきまでの騒がしさが嘘のように静寂が走っていた。
********
「………ど、どうします!?真希さん!」
「わっ、私に聞くな!パンダに聞け!」
「俺!?と、棘!」
「……」
「棘テメェ!自分は関係無いみたいな顔すんな!冷や汗ダラダラのくせに!」
さっきから釘崎と先輩達が五月蝿いけど、俺の脳内にはさっきの苗字の顔が離れなかった。いつものアイツなら乙骨先輩が好きなのか、という質問に間髪入れず好きだと答えたはずだ。なのに慌てて、まるで否定するように首を振るアイツに頭が真っ白になった。
「どうするんだ!恵!名前が憂太に取られちゃうぞ!」
「そうよ!伏黒!名前が何処の馬の骨かも分からない男に取られるのよ!」
「しゃけしゃけ!」
「………別に乙骨先輩は何処の馬の骨でも無いだろ」
俺が答えるとパンダ先輩が真面目腐った声を出して俺の顔を見た。
「………本当にいいのか?このまま名前が憂太に取られても」
「……取られるも何も、乙骨先輩にはもう相手がいるでしょ」
「でも里香は呪霊だったんだ。もう人間じゃない。………名前が取られるか、自分が取るか、………恵はどうしたいんだ?」
「……………」
パンダ先輩の言葉に全員が黙った。何故黙るのか分からなかったが、俺はゆっくりと口を開いた。
「………乙骨先輩なら、誰も文句は言えないでしょ」
「……………伏黒、アンタ本気で言ってんの」
「……………俺は、」
「名前の隣に立ちたいんじゃないの?だったらさっさと告白しなさいよ。言っておくけど同期とか友達とか、そんなので良いから隣に立っていたい、なんて言うなら性転換でもしてきなさいよ。そうすれば名前が誰と付き合おうと結婚しようと隣に居れるわよ」
「…………」
「でも絶対に1番にはなれないわよ。それに私たちは呪術師なのよ?」
「………だから、なんだ」
「…………いつ死ぬか分からないの。私もアンタもよく知ってんでしょ」
人は簡単に死ぬ。それをわかっているはずだったのに、虎杖の死で初めて近くに感じた気がした。虎杖の様な奴でも、津美紀の様な善人でも、この世界では簡単に死ぬ。
「名前が死ぬ時、アンタは思い出してすらもらえないんじゃない?だってアンタは1番じゃないもの」
「………」
「アンタが死ぬ時だって名前はアンタの隣には居ないわよ」
「………」
「それでもただ隣に居たいならさっさと名前は乙骨先輩にでも、あの東堂先輩にでも渡すべき」
「………………俺は、」
「それに名前って意外と頑固なの。命を助けられたからってアンタの事が好きじゃなければ名前は頷かない。さっさとそれなりの恩を返して姿を消すわよ」
「………………」
そんなの俺が知ってる。釘崎に言われなくても。
苗字の事は、俺が1番£mってる。