幽体の輪郭
『……………虎杖くん?』
「あっ!苗字〜!!」
『……これ、どういう事ですか』
私がジト目で五条先生を睨むと、先生はペコちゃんの様に拳を額に当てて舌を出していた。気持ち悪かったからそのまま五条先生の頭上だけに隕石落ちてこないかなって祈ってみたけどダメだった。
『……なんで他の2人に秘密にするんですか?』
「今悠仁が生きている事を伝えても、また狙われて終わりだ。だから京都姉妹校交流会までに強くなってもらう」
『………理由は分かりました。でもなんで私には教えたんですか?虎杖くんが生きている事』
「僕が任務の時は悠仁の相手を名前にしてもらおうと思ってるから」
「えぇ!?苗字が!?」
「悠仁は知らないだろうけど名前は準一級術師だよ」
「…………準一級?」
『一応ね!本当にオマケのだからね!』
「伏黒より強いって事…?」
『私なんて弱いよ!伏黒くんの方が余っ程強いから!』
「確かに肉弾戦は恵が余裕で勝つだろうけど、呪力ありきで戦ったら名前に軍配があがるだろうね」
虎杖くんは先生の言うことを本気にしてしまったのかキラキラとした瞳で私を見た。この子の瞳を見ると色々気持ちが削がれるから困る。
*******
「交流会まで一月半。ボサボサしてんなよ」
禅院先輩にそう言われて呪具を投げるように渡された。思っていたよりも馴染んで少し驚いた。
「そういや名前どうした?任務か?」
「……いや、」
「あ?恵も知らねぇのか?……サボりか?」
交流会に向けて訓練をすると禅院先輩に言われ、苗字を探したが見つからなかった。任務があるとは言っていなかった筈だが何故か見つからなかった。
******
「映画…、鑑賞?」
『………………え、私もですか?』
「名前なら無いと思うけど恵に会って悠仁の事バレたら困るからね。出来るだけ悠仁と行動すること」
『………勝手に私にバラしたのは五条先生なのに』
「それにどうせ名前は交流会出ないし」
『……………………………え?』
「だって名前1ヶ月後に海外任務でしょ?」
『………………忘れてました』
「海外!?苗字凄いぐぁばっ!!」
「はい、呪力は一定」
五条先生はそれから少し話すと用事があるからと出て行ってしまった。私は虎杖くんの足を少し退かしてもらい腰掛けて映画を見ていると何度か虎杖くんが呪骸に殴られていた。
『……………』
私は内心飽きていた。映画は嫌いじゃないけど既に3本は見てる。しかも虎杖くんが選ぶのはB級のものばかりだから正直辛い。
『……………ぁ、』
私が後ろを振り返ると五条先生が居て声をかけようとすると、先生は長い人差し指を唇に当てるから慌てて口を噤んだ。
「悠仁」
「うぉおおあ!?五条先生!?用事は!?」
「出かけるよ悠仁、名前」
『私も…?』
「課外授業、呪術戦の頂点。領域展開≠ノついて教えてあげる」
すると五条先生は片手で虎杖くんの首根っこを掴んでもう片手を私のお腹の辺りに回した。突然の浮遊感に体がピシリと固まった。文句を言おうと顔を上げた時、辺りは自然に変わっていた。
『…………え?』
「10秒位前まで高専にいたよね?」
「んー、トんだの」
説明する気の無い五条先生をジト目で見るとゆっくりと下ろされて慌てて足がつかないように曲げると先生はクスリと笑った。
「大丈夫だよ。濡れないから」
意味が分からなかったけどゆっくりと水に足をつけると、私の足は沈まなかった。
『……なにこれ、』
「なんだそのガキは。盾か?」
さっきまで先生の奇行のせいで忘れてたけど、呪霊の声で意識が戻った。先生はわざと煽るように呪霊に言った。
「大丈夫でしょ。だって君弱いもん」
その瞬間空気が凍った。それに先生の言ってる意味が分からなかった。この呪霊が弱い?少なくとも私はこんなに強い呪霊に会ったことが無い。
「舐めるなよ小童が!!そのニヤケ面ごと飲み込んでくれるわ!!」
溶岩の様なものを出しながら叫んだ呪霊に体が動かなくなっていると頭に温かいものが乗せられて顔を上げると五条先生の手が乗っている事に気づいた。
「大丈夫、僕から離れないでね」
この人は本当に最強なんだと、改めて実感した。
「領域展開 蓋棺鉄囲山」
景色が溶岩に包まれて熱風を遮るように右手を顔の前に移動させる。突然の事に頭が追いつかなかった。高専に居たはずなのに気付いた時には森の中で目の前には特級呪霊。でまた気が付いた時にはマグマの中ってどういう事なの。
「領域に対する最も有効な手段、こっちも領域を展開する。同時に領域を展開された時、より洗練された術がその場を制すんだ」
「灰すら残さんぞ!五条悟!!」
先生は目隠しを下ろすと右手を顔の近くに移動させた。
「領域展開 無量空処」
全てが初めてだった。領域展開も、こんなハイレベルな術戦も。私なんかとは格が違う。
「さて、誰に言われてここに来た」
先生は楽しむように足でゴロゴロと呪霊の頭を転がした。
「はやく言えよ。祓うぞ。言っても祓うけど」
「っていうか呪いって会話できんだね」
「ー!」
『っ!』
五条先生の目の前に何かが飛んできた次の瞬間、私たちの足元に花が咲き誇った。
「わー」
「お花だ〜」
『綺麗〜』
「っ、」
五条先生のパチンと頬を叩く音で私も正気に戻った。すると隣に居たはずの虎杖くんの体が宙に浮かんだ。
「先生!俺は大丈夫!ソイツ追って!」
突然現れたもう一体の呪霊に私は慌ててさとるくんを出そうとしたけど間に合わなかった。
「ゴメン!嘘!ヘルプ!」
虎杖くんの言葉に助けに入ろうとしたけど私の足には蔦が巻き付いていて動けなかった。五条先生は追っていた足を止めて虎杖くんを助けると楽しそうに腕を組んで、虎杖くんは綺麗な土下座を披露していた。
「へぇ…。このレベルの呪霊が徒党を組んでるのか。楽しくなってきたねぇ」
五条先生は虎杖くんと私ににあれくらい強くなって欲しいと言ったけど、私はなれる気がしなかった。それが顔に出ていたのか五条先生は笑って私の頭に手を置いた。
「大丈夫だよ。名前はちゃんも強くなってる。さっきの呪霊くらいすぐに勝てるようになるよ」
『……………頑張り、ます、』
私が自信無さげに頷くと虎杖くんが元気よく右手を上げた。
「はい先生!」
「はい!悠仁くん!」
「さっき苗字にも言ってたけど、交流会って何?」
「…………言ってなかったっけ?」
私もどうにか交流会に参加できないか掛け合ってみようかな。なんて柄にもなく思った。