まぼろしを整える




「俺虎杖悠仁!よろしく!」

『私は苗字名前です!よろしくね!虎杖くん!』

「わ〜!名前猫かっぶり〜!」

『虎杖くんは宮城出身?』

「そう!じいちゃんと2人暮らしだった!」

『へぇ〜!お爺ちゃんと仲良いんだね〜!』






五条先生を無視して伏黒くんを真ん中にポールに腰を預けて上体を倒して虎杖くんを見ると遅れてきた五条先生が悪びれもなかったからちょっと意地悪した。私は任務で直接集合だったから虎杖くんとは原宿で初めて会った。うん、凄くいい子そう。




『もう1人って女子ですか?』

「らしいぞ」

『やった!嬉しいっ!』




確かに伏黒くんと2人も楽しかったけど人が増えればもっと楽しくなると思う。まだ伏黒くんと五条先生にしか素は見せられないけど。




「あっ!クレープ見っけ!苗字食べる?」

『ううん、私は大丈夫』

「伏黒は!?」

「俺もいい」

「そっか〜…、」

『……………私、クレープじゃなくてタピオカ買おうかなっ!』





虎杖くんが少し悲しそうに肩を落とすから少し気になってたタピオカを買おうかなって思って後を追う。それでタピオカをふたつ頼むと虎杖くんに不思議そうに首を傾げられた。




「伏黒の分?」

『ううん!伏黒くんは多分要らないって言うから。虎杖くんクレープ貰ったら先に戻ってて大丈夫だよ』

「本当?迷子にならない?」

『ならないよ…』




虎杖くんは頷くとクレープを貰って少し寄り道してからみんなの元に戻って行った。私は少ししてからタピオカを2つ貰って駆け足で戻ると初めて見る女の子が溜息を吐いて環境に恵まれないと肩を落としていた。





『これどうぞ』

「……タピオカ?」

『……あ、タピオカ嫌いだった?』

「嫌いじゃないわ、ありがとう」

『私は苗字名前です!よろしくお願いします!』

「私は釘崎野薔薇よ」

『釘崎さんはどこ出身なの?』

「野薔薇でいいわ」

『野薔薇ちゃん?』

「野薔薇」

『………の、野薔薇、』




今まで誰かを呼び捨てで呼んだことが無くて、ぎこちなく呼んでしまって恥ずかしくなって顔を伏せると釘崎さんーー野薔薇は一瞬目を見開くと私を抱きしめた。



『……えっ、』

「何よその反応!私のツボを抑えてるわね!」

『のっ、野薔薇っ、恥ずかしいっ、』





慌てて腕を解こうとするけど野薔薇の声が嬉しそうだから何も出来なかった。すると五条先生の声が聞こえた。離してくれるのかと思ったけど腕はそのままで中途半端な体勢でちょっと辛かった。




「行くでしょ!東京観光!」




五条先生の声にようやく野薔薇の腕は離れて、虎杖くんとどこに行くか揉めてる様だった。私は半端な体勢のせいで固まった腰を労わるように撫でると隣に伏黒くんが移動してきて顔を上げると無表情のまま私を見下ろしていた。





『どうかした?』

「……いや、」





伏黒くんは何も言わずに顔を逸らすと五条先生は話を聞いていなかった私達に六本木に行くよ〜と間延びした声で言った。でも途中から通る道がおかしいから向かってるのは六本木じゃないなって伏黒くんと顔を見合せた。





「いますね。呪い」

「六本木ですらねぇー!!」




五条先生は野薔薇と虎杖くんに中の呪霊を払ってくるように伝えると、虎杖くんを呼び止めた。





「宿儺は出しちゃダメだよ」

『……すくな?虎杖くんも式神使いなの?』

「………いや、あいつは、」




伏黒くんは気まずそうに視線を逸らして宮城であった事を説明してくれた。つまり虎杖くん特級呪物を飲み込んだらしい。………良い子なんだけどね。変わってるね。





『そのスクナの指って何百年も前の物じゃないの?』

「そうだな。そもそも呪霊とはいえ指だからな」

『…………虎杖くん凄い』





2人は中に向かうと私と伏黒くん、そして五条先生は建物の前に座った。こう見えて五条先生は育ちが良くないのかもしれない。家が凄いことは伏黒くんから聞いて知ってるけど私はこの人自体の育ちは良くないと思ってる。だって普通にこの人躊躇わずに地べたに座るしまず、座り方がガラが悪い。





『…………伏黒くん、ちょっと詰めて』

「………」

『流石にスカートで地べた座るのは嫌だな…』






伏黒くんは少し息を吐き出すと重い腰を横へとずらしてくれた。狭くて肩が伏黒くんとぶつかってるけどまぁ、許して欲しい。私のスカートは真希さんと同じタイプだから野薔薇みたいにミニスカートでは無いけど、それでも地べたはちょっと抵抗がある。





「なんなら僕の膝の上に座る?」

「…………セクハラです」

『五条先生細いから嫌です。座り心地良くなさそう』

「あ、そこなんだ」





私は建物を見上げるとつられたのか伏黒くんも顔を上げた。そして自分も行くか、と五条先生に言ってたけど先生は首を横に振った。




「でも虎杖は要監視でしょ」

「今日試されてるのは野薔薇の方だよ」

『……試される?』




私が首を傾げると五条先生は呪術師はイカれた奴じゃないと出来ないと言った。その流れだと私はイカれてるって事になっちゃうんだけど…。





「名前は特にイカれてるよね。呪術師向き」

『……………イカれてません』

「なんで?呪術師向いてるって言ったんだから喜べば?」

『イカれてるって言われて喜ぶ人はいないと思います』





私がそう言うと窓ガラスから片腕がない呪霊が飛び出して来て伏黒くんが払おうとすると五条先生が止めた。





『……あれは、野薔薇かな?』

「そうだな」

「よしっ!2人が戻って来たら飯行こっか!」

『先生の奢りですか!?』

「モチのロン!」




私は立ち上がってスマホをいじり出すとそれが珍しかったのか伏黒くんも立ち上がって私のスマホを覗き込んだ。





『私、先生の奢りだったら行きたい場所があったの!』



私がスマホで検索している間、野薔薇と虎杖くんは建物から出てきた。けど、子供を連れていて私と伏黒くんは同時に首を傾げてしまった。





「じゃあ僕達3人で子供を送り届けてくるから悠仁と野薔薇は待ってて」




無事に子供を送り届けて2人が待つ場所へ戻ると2人は何を食べるかで争い始めた。





「……お前食いたいのあるんじゃないのか?」

『ううん!せっかくだから2人が食べたいものにしよう』

「………」

『我慢とか遠慮じゃないよ?本当に2人が食べたいものが食べたいの』

「………そうか」




伏黒くんは納得してくれたのか視線を2人に戻した。そんな伏黒くんの袖を引っ張ると彼はまた私を見てくれた。





『今度大きな任務が終わって2人ともお金に余裕が出来たら食べに行くの付き合ってもらっていい?1人は流石に入りづらくって』

「…………分かった」

『ありがとうっ!』

「名前!あんたは何が食べたい!?」

『私は虎杖くんと野薔薇が食べたいものがいいな』

「そんな答えは要らないの!」

『本当なんだけどな…、』




野薔薇は私の両頬を両手で掴むと伸ばすから慌てて野薔薇の手に自分の手を重ねて離してもらうと、虎杖くんは伏黒くんに話しかけていた。




「どったの、伏黒」

「別に」

「出番が無かったのと、野薔薇に名前が取られたのに拗ねてんの」

「プップー、子供〜!」

『大丈夫だよ!私も出番無かったから!』





伏黒来んの隣に移動して励ますとおでこを結構な力で弾かれて痛かったから伏黒くんの手の甲を抓ったらビクって体が跳ねてて面白かったから許してあげた。
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