未知の光体
「……コスプレですか?」
「コスプレじゃないよ〜!立派な潜入捜査だよ〜!それに着るのは僕じゃない」
伏黒は目の前の巨大な男を見上げる。巨大な男ーー五条悟は唇を突き出して伏黒の目の前に茶色のブレザーの制服を左右に揺らす。その動きに伏黒は眉に皺を寄せた。
「……次はなんの任務ですか」
「潜入する学校では最近、呪いの力が強まってるらしい」
「らしい…?」
「な〜んか、曖昧なんだよね…。伊地知に聞いたら波があるだのなんだのって。呪力が強い時と弱い時の差が激しいんだってさ」
「……」
「本当は僕が行きたいんだけど、生憎他の任務が入っちゃってねぇー」
五条悟は茶色のブレザーを自分の体に合わせるようにピッタリとくっつけると可愛らしく首を傾げた。
「それに恵より僕の方が似合いそうじゃない?」
「………」
「そんな怖い顔しないでよぉ」
五条はシュンと落ち込んだ様に背中を丸めると、伏黒に半ば押し付けるように制服を渡して先程までの楽しそうな表情を消して声を低くして伏黒の顔を覗き込むように小さく呟いた。
「何かあったら逃げること。何より命優先だ。分かった?」
「…………はい」
伏黒は静かに頷いて制服を受け取ると五条は鼻を鳴らして上体を起こして伏黒の肩に手を置いて2回ポンポンと叩くと背中を向けて去って行った。
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「……ここか」
伏黒はスマホの電源を落とすと、ズボンにしまって校舎を見上げた。今の時間は夕方で部活を行うもの、友人と駄弁りながら下校する者が校門を行き来するなか伏黒は校舎を目指して門を通り抜ける。
「…………」
校舎を一通り回り、伏黒の表情は曇る。伊地知の情報通り呪力に波があるのか、伏黒が今居るこの校舎はあまり呪力が感じられなかった。むしろ学校にしては呪力が少なかった。
「君!何年生だ?もう下校時間だぞ」
「……すみません」
伏黒が2階を歩いていると教員らしき男に声をかけられて伏黒は小さく謝罪を述べると辺りを確認して下駄箱を目指すフリをした。すると細かく調べていたせいで辺りは暗闇に包まれて伏黒はスマホを取り出して使われていないであろう教室に入り、ホコリの被った椅子を軽く払って腰掛ける。
それから数時間すると教員達も帰ったのか辺りは静寂に包まれた。それを確認すると伏黒は立ち上がって教室を出る。
「…………帰るか」
呪力の小ささから伏黒はこの学校に危険は無いと判断して小さくそう零して、取り越し苦労だったな、と息を吐く。
『………こんな時間に何してるんですか?』
「……は?」
突然の声に伏黒は慌てて後ろを振り返ると何故か全身が濡れている女子生徒が立っていて伏黒は目を見開く。
「……お前こそ、何やってんだよ」
『私?私は…、』
伏黒は警戒を緩めることなく女子生徒を睨み続けて唸るように聞き返す。すると女子生徒は困った様に笑って少し首を傾げた。
『……閉じ込められてました』
「……はァ?」
『ついさっきまで女子トイレに閉じ込められてました』
「………」
『あっ、でもこの水はトイレの水じゃ無いので綺麗ですよ!』
「……誰もそんな心配してねぇよ」
伏黒は少しだけ警戒を解くとポタポタと水滴を廊下に落とす女子生徒のスカートを見つめる。
「……帰った方が良いんじゃねぇのか」
『うん。流石に寒いからそろそろ帰るよ』
そこで伏黒ははたと気付いて、帰ろうとする女子生徒に声をかける。
「…お前、閉じ込められてたって言ってたな」
『え?うん』
「どうやって出てきたんだよ」
『どうやってって…、』
女子生徒は考える様に人差し指と親指で顎を掴んで首を傾げて捻り出すように言葉を紡いだ。
『……蹴っ飛ばして?』
「ゴリラかよ」
伏黒の素直な言葉に女子生徒は目を見開いた