罪もなく罰もなく、ただなにもない

『最近、先輩達居なくて寂しいね…』

「いや、別に」

『寂しいから真希さんの部屋で寝ちゃおうかな…。伏黒くんは?真希さんの部屋行く?』

「行くわけないだろ」

『じゃあ狗巻先輩の部屋?』

「なんでだよ…」




伏黒くんは寂しくないのか…、と肩を落とすと彼は少し面倒臭そうに視線を逸らしていた。




『5月って何となく憂鬱だよね…、皐月病かな…』

「普通に夜遅くまで俺の部屋でゲームしてるからだろ」

『だって伏黒くんの部屋が1番電波いいんだもん』

「何処も変わらねぇ…」

『いや!検証したんだよ?私の部屋と真希さんの部屋と狗巻先輩の部屋とパンダ先生の部屋で!』

「……夜にか?」

『え?えっと、お風呂入って寝る準備までして、よし行くぞ!って思って行ったから…、9時過ぎとかかな…?』

「………」




私がそう言うと伏黒くんは眉を寄せて私を睨んだ。いや、睨んでないのかもしれないけど伏黒くんは目つきが悪いから睨んだ様にも見えた。……いや、睨んでた。




「……もっと気を使えよ」

『え!?…………おっ、お茶買って来ようか!?』

「そういうことじゃ無い」

『……たまに伏黒くんはハイレベルな日本語を使うから解読が難しい…』

「ハイレベルな日本語ってなんだ。日本語にハイレベルも何も無いだろ」

『もう5月か〜…、1年生私たちだけなのかな?』

「……………どうだろうな」





何故か伏黒くんは諦めた様に溜息を吐いてしまった。それが気になってポケットに入れていたチョコレートを出すとちらりと見て受け取ってくれたからそんなに機嫌は悪くないみたいで安心した。





****





最近、苗字の様子がおかしい事は分かっていた。




『……』





ふとした時に見せる表情が、どこかつまらなそうだった。いつだって苗字はヘラヘラと笑っていて、楽しそうにしている奴だった。




「あっ!名前〜!」

『……五条先生』

「うわっ、嫌そうな顔〜、傷付くなぁ」





何より1番変わったのは五条先生への態度だった。誰にでも笑って愛想良くする苗字が五条先生に対してだけは何処か嫌そうな顔をするようになった。




『なにかありました?』

「ヘッタクソな笑顔!気持ち悪っ!」





苗字の笑顔に五条先生は自分を抱きしめる様に肩を抱くとそう言って、苗字から距離を取った。すると苗字はピキリと笑みを固めたと思ったら頬を膨らませて怒りを露にした。




『ひどい!女の子に言うことじゃない!そんなんだからモテないんですよ!』

「はァ〜?僕はモテます〜!この顔見てよ!素晴らしい配置に素晴らしいサイズ感でしょ!?」

『先生の顔は好みじゃないで〜す』





その返しに少なからず俺は驚いた。苗字なら『確かに先生かっこいいですね』くらいは言うものだと思っていたから。どこか五条先生に砕けた態度の苗字に俺は腹の辺りがジクジクと痛んだ。何も変なものは食ってない筈なのに、と思いながら腹を撫でるとそれに気付いた苗字が心配そうに俺を見上げた。






『…伏黒くん?…体調悪い?大丈夫?』

「……平気だ」





俺がそう答えると苗字は安心した様に息を吐き出した。






「生意気言ってる名前には重めの任務流しちゃうから〜!」

『職権乱用です!』

「良いんだよ〜!僕先生だも〜ん」





子供のように両手を顔の横に移動させて指をバラバラに動かす五条先生に苗字は頬を膨らませる事無く眉を寄せていた。





「それじゃあ恵、体調には気をつけなよ〜」

「……はい」




気をつけろも何も、俺は別に体調なんて悪くない。ただ、腹の辺りが少し痛むだけだ。




『五条先生のせいですよ!』

「それはどうかな〜!名前の性悪がバレたんじゃない〜?」

『ーっ、どっか行ってください!』





五条先生の前の砕けた苗字を見て、俺は苗字の事を何も知らないんだな、と知った。




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「見えない臓器の名前は」
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