ストーカーと伏黒恵





「……伏黒、後ろに居るのって」

「俺のストーカー」

「あぁ!ストーカーね!……ストーカー!?」





高専内を虎杖と伏黒が歩いていると、伏黒の後方の影に気付いて虎杖が伏黒の袖を引きながら聞くと、当たり前のように答える伏黒に虎杖は驚く。




「ス、ストーカーってそれ先生に言った方が良くない!?」

「別になにかしてくるわけじゃない」

「そんなの分かんねぇだろ!?」





虎杖がバッと後ろを振り返ると2人の後ろにある影も姿を隠す。虎杖はダラダラと冷や汗を流しながら伏黒の腕を掴むと当の本人は面倒臭そうに無表情で首を逸らした。



「伏黒!ちゃんと先生達と話し合おう!な!?」

「だから別に…」

「行くぞ!」

「おい!話をっ!」




虎杖は伏黒の腕を引きながら爆速で走り抜けると、後方にあった影だけがポツンと取り残されていた。




******




「五条先生何とかしてよ!」

「だから何も問題は…」

「急に言われても困るんだけどな〜」




虎杖は伏黒の腕を引いて五条の元へと訪れると、喜久福を食べていた五条は口の周りに粉を付けながらどうでも良さそうにおどけてまた1口喜久福を口に含んだ。




「だから!伏黒にストーカーが居るんだって!」

「ストーカー?」

「そう!ストーカー!」

「ストーカーねぇ…、ウケる」

「ウケてないで助けてよ!」





被害を受けて居るはずの伏黒は他人事の様に五条先輩の喜久福を手に取ると空いている椅子に腰を下ろした。




「ストーカーってあれでしょ?名前でしょ?」

「…へ?先生知ってんの!?」

「この間恵が助けた女の子と一緒にいた女の子でしょ?」

「……………ん?」

「まぁ、そうですね」

「え?…え?どういうこと?」






混乱する虎杖を気にせずに五条と伏黒は喜久福を食べると虎杖はグルグルと目を回し始めたのを見て、五条は長い足を放り出すように立ち上がると扉に近付いて手をかけた。




「も〜面倒だから本人に聞きなよ〜!はい!ご本人さんどうぞ〜!」

「…えぇ!?本人!?」

『ぎゃぁ!?』





五条が勢い良く扉を開けると、転がるように登場した女子に虎杖は目を見開いた。




「……あ〜!!この人!この人が伏黒のストーカー!」

『スッ、ストーカーじゃないです!!』





起き上がり正座をした女子は顔を隠す様に俯くとポツリポツリと小さく言葉を発した。





『ストーカーじゃなくて…、ちょっとだけ見守っていると言いますか…、ちょっと生活の一部を見ていたいと言いますか…、影から見守っていただけです…』

「いや!それをストーカーと言うんだよ!?」




虎杖のツッコミに女子ーー名前は床に手をついて頭を付けると虎杖も驚いたのか1歩後ろに下がった。伏黒と五条はただじっと眺めていた。




『…私なんかが視界に入ってすみません。すぐに消えます。許されるなら今度、喜久福をお部屋の前に置いておいてもいいでしょうか。勿論、変なものは一切入れません。不安ならば宅急便に直送してもらいます。』

「え?喜久福?いいよ〜」

『貴方には言ってません』





五条の言葉に冷たい声で返す名前に虎杖が怯えた声を出すと伏黒は初めて口を開いた。




「…別に喜久福は好きじゃない」

『知ってます、と伝えてください』

「えぇ!?俺!?なんで!?目の前にいるんだから自分で言いなよ!」

『私なんかが言葉を交わして良い相手じゃないの!!』

「えぇ〜……、伏黒、この子喜久福が別に好きじゃないの知ってるってさ」

「………」




虎杖の言葉に伏黒は眉を寄せると五条が喜久福を飲み込んで楽しそうに笑った。




「あははっ!名前ってば江戸の女みたい!」

『3歩どころか10歩程後ろを歩きます』

「恵もさ、喜久福買ってもらうんだったら少しくらい名前の願い叶えてあげれば?」

「…別に俺は頼んで無いんですけど」



五条は完全に面白がった様な笑顔でそう言うと伏黒は鬱陶しそうに顔を顰めると大きく溜息を吐いた。





「はぁ……、なんか、あるのか」

『…………?』







未だに地面に額を付けている名前は顔が見えないのに雰囲気から戸惑っている事が感じ取れた。すると伏黒はまた繰り返した。




「……なにか、俺にして欲しいことあるのか」

『…………』







名前は顔を上げるとその表情は目を大きく見開き、額が真っ赤になってしまっていた。





『…………あ、あの、私…』

「伏黒いいの!?相手ストーカーだよ!?」

「まぁまぁ、悠仁落ち着いて」






名前は頬を真っ赤に染めてジッと伏黒を見つめると、伏黒も名前をジッと見据えた。

名前は1度唇を噛むと決意したように顔を引き締めた。




『私!生まれ変わったら伏黒くんの髪の毛になりたい!!』

「…………………え?…えぇ!?」

「発想が斜め上過ぎるよね。で?恵の答えは?」




五条と虎杖が伏黒を見ると彼は無表情のままでなんでもない様に言い放った。




「なれるといいな、髪に」

『ーっ、…はいっ!頑張ります!!』





名前は嬉しそうに笑うと立ち上がり勢い良く出て行くと取り残された3人の間に静寂が流れた。




「……え?…伏黒、いいの?」

「来世の恵の髪の毛は名前かぁ〜」

「やっぱおかしいって!ふしぐ、ろ?」



扉を眺めていた虎杖が伏黒の方へと振り返ると信じられない光景が広がっていた。






「…………」






顔を赤くして視線を逸らしている伏黒が居て、虎杖は目玉が飛び出すのでは無いかと心配になるほど目を見開いた。五条は楽しそうにニヤニヤと口元を緩めていた。





「……え?伏黒、……もしかして、」

「恵も変なの好きになっちゃったね〜」

「………黙ってください」





片手で口元を覆う伏黒に虎杖はそんな彼に近付いて肩にポンッと手を置いた。




「………まぁ、うん、その、……応援する」

「……………おう」






恥ずかしそうに頷く伏黒に虎杖は自分の胸のむず痒さを感じていた。





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