3話 願ってしまった




彼の屋敷で料理をすると、私の手つきを見る為か、背後から顔を覗かせた。



「おぉ!料理が出来るのだな!」

『まぁ、はい』

「その年にしては立派、立派!」

『………ありがとうございます』




見た目は子供でも、中身は成人済みの一人暮らしをしていた大人だ。ある程度の事は出来る。その事を煉獄さんーーー、杏寿郎様は本当に凄いと思っていると言わんばかりに褒める。実際に凄いと思っているのだろうが、私の心境としては大人として当たり前の事を褒められ微妙だ。



『……杏寿郎様は炎柱なんですよね?』

「む?煉獄さんとは呼ばないのか?」

『…雇って頂いている身ですから』

「俺は気にしないが…。おっと、質問の答えだな。俺は鬼殺隊で炎柱をやっている」

『……鬼殺隊』

「鬼殺隊がまず分からないか」



私が零すと、杏寿郎様は丁寧に説明をしてくれた。この世界には鬼が居ること。そして彼はその鬼を狩っている事。当たり前だが、聞いた話全てが鬼滅の刃の世界のものだった。




『……怖く、ないんですか?』

「ん?」

『っ、あ、えっと、ちがっ、』



無意識に出た言葉に慌てて訂正しようと口を開く。命を張って人を救っている人に怖くないのか≠ネんて聞くのは失礼だ。



『すっ、すみません!』



私が慌てて畳に手を付いて額も床につけると、杏寿様の笑った声が聞こえた。けれど顔が上げられずただただ近すぎてピントが合わない畳を見つめる。



「君は本当に面白いな」

『…申し訳、ありません』

「何故謝る。俺は褒めたんだ」



いつの間に近づいたのか、杏寿郎様は土下座をしている私の肩に手を置いた。その手が顔を上げろと言っているように少しの力が込められて、顔を上げる。


『……杏寿郎様』

「…鬼を斬るのが怖くないのか、という質問だったな」

『あ、いや、……すみません』

「君は謝ってばかりだな」




そう言って笑うと、彼は私の手を取って部屋の中へと移動すると杏寿郎様は正座をして姿勢を正した。それを見て私も足を畳んで姿勢を正す。



「……怖くないか、か。」

『……』

「勿論、怖いさ。誰だって怪我する事は望まない。それに死ぬ事も誰もが抱える恐怖だ」

『……』



私だって死ぬ事は怖いと思う。けれど、言葉の重みが違う。私なんかがいつか来る死を怖いと言う事と、明日命を落としてしまうかもしれない杏寿郎様とでは言っている言葉の意味も、重みも全てが違う。


そう思った時には私の唇は勝手に動いていた。




『………死なないで、ください』

「…あぁ、俺は死なない」

『お願い、しますっ、死なないでっ、』

「少なくとも名前が元居た場所に帰れるまで、死なないと約束しよう!」



そう言って涙を流す私の頭を杏寿郎様は撫でた。




その時≠ェ来るまで、この人の温もりを大事にしたい。

……違う。その時≠ェ来ても、生きて欲しい。話を捻じ曲げてもこの人に生きていて欲しいと、願ってしまった。










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