2話 こうして続いた




『……だ、大丈夫、これは夢だから。夢だから大丈夫』

「冷や汗が凄いが大丈夫か?」




夢だから、と口では繰り返すけれど、この夢は何処か可笑しいと感じていた。私は幼い頃の自分の顔を覚えていない。いや、大元おおもとの顔は変わっていない事は分かっている。けれどこんなにも鮮明に、幼い顔を夢で描ける程なんて覚えていなかった。



『……いやいやいや、あれだよ。想像の幼い頃の自分の顔でしょ?』

「……そんなに桶を覗き込んでどうしたんだ?」

『……』



私は桶から顔を上げて跪いたまま煉獄さんを見上げる。



『……そう、大丈夫。夢だよ。だってここは鬼滅の世界なんだから。これが現実な訳ない。だってこれが現実なら私が美女になってないのは可笑しいんだから。普通、生まれ変わりとかトリップって美少女か美女になるものでしょ?………うん、大丈夫。私は美少女でも美女でも無いから大丈夫』

「何を言っているのか分からないが夜中に出歩くのは危険だ。帰りなさい」

『……………目を覚ませばいいですか?』

「……は?」





そう言って頬を抓った私を、キョトンもした顔は漫画でもアニメでも見たことが無かった。



「……つまり帰り方が分からないと!」

『帰り方というか…、目の覚まし方というか…』




私は煉獄さんに帰る場所が分からないと答えた。まずここは鬼滅の刃の世界で、私が居たのは大正時代では無く、令和だ。そもそも漫画の世界では無い。



「……ふむ。」

『……とりあえず、もう少しすれば目も覚めると思うので大丈夫です。ありがとうございました』

「まぁ待て!」



立ち去ろうと背中を向けた時、煉獄さんに待ったをかけられ立ち止まる。すると彼は少し考える様な素振りを見せ、またカッと目を見開いた。



「俺が面倒を見てやろう!」

『…………はァ?』

「帰る場所が無いのだろう。その格好は見たことが無い。最近は洋装も流行っているそうだが、その様な服は見たことが無い!つまり君が居た場所は遥かに遠い場所と言う事だ!」

『…………確かに、遠いですけど、』



遠いというか、次元が違いますけど…、と答えそうになり慌てて口を噤む。


「俺の家に来るといい!」

『………はい?』

「帰れる手立てが見つかるまで奉公人として世話を見てやろう!」

『………いやいや!可笑しいですよ!見ず知らずの人と一緒に住むつもりですか!?セキュリティガバガバ過ぎません!?』

「…せきゅり?」

『とにかく!見ず知らずの人に一緒に住もうだなんて言ってはダメです!私が許しません!』

「……うむ、そうだな」



私がそう言うと煉獄さんは1度視線を下に反らし、また顔を上げた。



「俺は鬼殺隊、炎柱の煉獄杏寿郎だ!」

『あぁ、それはご丁寧にどうも。私は苗字名前です』

「そうか!名前か!これで見ず知らずの人では無くなったな!」

『…………いや、違う!!違います!そういう事では無いです!』

「ならばどういう事だ?」



本当に分かっていないのか煉獄さんは首を少し傾げて、私はグッと唇を噛んだ。



『私が煉獄さんの家に住まわせて頂いたとして!何か物を盗んだらどうするつもりですか!?』

「盗むのか?」

『盗みません!』

「なら問題無いな!」

『あぁああ〜!イライラする!だからぁ!』




私が頭を掻き毟り、地団駄を踏みながら煉獄さんに言い返す為に顔を上げると、トンと額に指が当てられる。



「……俺は君を信じる」

『…………………は、』



そう言って彼は優しげに少しだけ口元を緩めた。




『……………あぁ〜、もう…、』




私は彼に関しては何の心配もしていないのだ。当たり前だ。彼は真っ直ぐで、命懸けで人を守る様な人なのだから。私は≠サれを知っている。



けれど、彼は私の事を知らない。なのに無条件に私を信じて、真っ直ぐに見つめて、そんな事をされたら誰だって、この人を裏切る様な行為なんて出来るわけが無い。




『………後悔、しないでくださいね』

「あぁ!」

『……物が無くなっても知りませんから』

「心配ない!」

『………煉獄さん、』

「なんだ?」

『…………ありがとう、ございます』

「…………礼には及ばん」



私助けてくれる事と、………私を信じてくれた事に対してお礼を述べると彼はまた優しく微笑んだ。





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