37話 愚かな息子




炭治郎は息を切らしながら煉獄の鎹鴉に導かれ煉獄の生家を目指していた。




「千寿郎…君?」

「ーっ!!」




門前で掃き掃除をしている千寿郎に声をかけると、千寿郎は驚いたように顔を上げた。その瞳の下にはクマが出来ていた。



「煉獄杏寿郎さんの訃報はお聞きでしょうか…、杏寿郎さんからお父上と千寿郎さんへの言葉を預かりましたので…、お伝えに参りました」



炭治郎の言葉に千寿郎は動揺したように眉を寄せ、言葉をもたつかせながら紡ぐ。



「…兄から?…兄のことはすでに承知しておりますが……。あの…、大丈夫ですか?あなた顔が真っ青ですよ」

「やめろ!!どうせ下らんことを言い遺しているんだろう!」



千寿郎が心配そうに言うと、煉獄の父である槇寿郎の声が響き渡った。


「たいした才能も無いのに剣士などなるからだ。だから死ぬんだ!!くだらない…、愚かな息子だ杏寿郎は!!」




実の父である槇寿郎から出てきた言葉に炭治郎は驚きと共に怒りを感じた。


*******




『………』


名前が瞼を開くと、見知らぬ天井が広がった。



『……千寿郎様?』




名前は玄関口の方から聞こえた槇寿郎の声で目が覚め、自分を看病してくれていた千寿郎が居ないことに気付き痛む脇腹を抑えながら玄関口を目指す。



*******



「人間の能力は生まれた時から決まってる。杏寿郎もそうだ。大した才能は無かった。死ぬに決まってるだろう」




槇寿郎の言葉に千寿郎が下を向き静かに涙を流すと、それに気付いた槇寿郎は怒号を浴びせる。



「千寿郎!葬式は終わったんだ!いつまでもしみったれた顔をするな!」

「…ちょっと!あまりにも酷い言い方だ!そんな風には言うのはやめてください」



青筋を浮かべ、怒りを露わにする炭治郎に槇寿郎は強く言い返す。


「何だお前は。出て行け!うちの敷居を跨ぐな…」

「俺は鬼殺隊の…」

「ーっ!!」




槇寿郎は炭治郎の耳飾りを見ると持っていた酒の入った瓶を落とし、目を見開いてフラフラと1歩前に出る。



「……お前……そうか、お前……日の呼吸≠フ使い手だな!?そうだろう!」

「日の呼吸=H……何の事ですか?」



態度の豹変した槇寿郎の発した日の呼吸≠ニいう言葉に意味が分からず炭治郎は思わず聞き返す。



「ーっ、」


気がついた時には炭治郎は地面に押し倒され、動きを封じられていた。



「父上!やめてください!その人の顔を見てください!具合が悪いんです!」

「うるさい!黙れ!」




炭治郎を助けるために槇寿郎を掴み離そうとする千寿郎に怒鳴ると、槇寿郎は腕を振り下ろす。



『ーっ、』

「名前さん!」




怒号を聞きつけやってきた名前が千寿郎が殴られるより早く、彼を背中に隠し槇寿郎の拳を受け止め、その衝撃から地面に倒れ込む。



「いい加減にしろ!この人でなし!!」




その姿を見て炭治郎は槇寿郎を殴り飛ばす。そのまま上体を起こし叫ぶ様に言葉を続ける。



「さっきから一体何なんだ!あんたは!!命を落とした我が子を侮辱して!殴ろうとして!何がしたいんだ!!」

「お前、俺たちのことをバカにしているだろう」

「どうしてそうなるんだ!何を言っているのか分からない!!言いがかりだ!!」



すると槇寿郎は青筋を浮かべ炭治郎を指差す。



「お前が日の呼吸≠フ使い手だからだ。その耳飾りを俺は知ってる。書いてあった=I」

「っ、」




槇寿郎の言葉に炭治郎はヒノカミ神楽を思い出す。


「日の呼吸≠フ使い手だからと言って調子に乗るなよ小僧!!」




槇寿郎の言葉に炭治郎が息を飲み、涙を流す。



「乗れるわけないだろうが!!今俺が自分の弱さにどれだけ打ちのめされてると思ってんだ!!この糞爺くそじじい!!煉獄さんの悪口言うな!!」



炭治郎らしからぬ罵声を発し、槇寿郎に襲い掛かると殴り飛ばされた名前の元に寄っていた千寿郎が声を荒らげる。




「危ない!!父は元柱≠ナす!」



その言葉が怒りで聞こえていないのか炭治郎は槇寿郎に殴りかかるが、槇寿郎に頬を殴られる。



「やめてください父上!!」




ーー何でだ

ーーもしヒノカミ神楽が日の呼吸≠セったなら、

ーーそんな凄い呼吸だったならなんであの時煉獄を助けられなかった!!




炭治郎は心の中に煉獄の姿を思い浮かべ、後悔を問う



「そこの小娘だって炎の使い手だと聞いた!!結局あの小娘だって何にもなれはしない!!師すらも救えない奴に何が出来る!!何も守れはしないのだ!!」

『………』

「父上!違います!!名前さんは!!」



ーー何でだ


ーー何でだ

ーー何でなんだ!!


炭治郎は殴る為に右手を上げた槇寿郎の拳を避け、そのまま体を捻ると槇寿郎に頭突きをかました。



そのまま2人で倒れ込むと千寿郎が2人に駆け寄った。



『………』



その間、名前はただその姿を見ているだけだった。













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