35話 温もりを追いかけて
『……煉獄さん、……煉獄さん』
名前は煉獄の頬に手を伸ばし、一度グッと拳を握りそしてゆっくりと頬に触れる。
『……嘘、ですよね?そんな冗談、笑えませんよ…?…だって、だって、まだ温かい…、』
名前は薄らと引き攣った笑みを浮かべ、声を震わせながら言葉を続ける。
『だって、私、まだ柱になってませんよ…?私は、未熟だから、煉獄さんが居てくれないと、』
ーー痛い…、痛い、痛い、痛い、
ーー身体中の至る所が痛い
ーー心臓が、痛い、喉が焼けるように熱い、目の奥がビリビリとまるで電気が走ったように痛い
安らかな表情を浮かべている煉獄とは反対に名前の表情は曇って行く。
『一緒にっ、居てくれるって…、死なないって…、言ったのに…!』
ーー頭が回らない、どっちが上だ、どっちが右だった
ーーどうしてこの人は、息をしていない
泣き出したい気持ちを必死に抑える。泣いていいわけが無い。未来が分かっていたのに救えなかった自分に涙を流す資格なんてあるわけないだろう。
『っ、煉獄、さ、』
遠くで鴉の鳴き声が聞こえた。
*******
『………』
隠が現れ怪我人の確認などをしていく中、名前は脇腹を抑えながら森の中を1人で歩いていた。
『……………あった、』
名前が拾い上げたのは折れた刀身だった。輝く刀身はまるで今も持ち主が握っているかのように美しく…、そして強く輝きを放っていた。
『………煉獄さん、』
煉獄がこの赤い刀を振るうのを名前はこの世界に来てからずっと見続けて来た。この強い剣で、意思で多くの人々を救ってきたのを見てきた。
『………っ、』
唇を噛み、手のひらをグッと握ると刀身を握っていた手のひらからボタボタと血が流れた。
『…痛い、………痛い、なァ…、』
そう言った名前の表情は苦しそうに、堪えるように歪んでいた。
********
善逸は落ち込んでいる炭治郎を励ます為に無断で貰ってきた饅頭を持ちながら蝶屋敷の廊下を歩く。
「炭治郎!まんじゅう(無断で)もらってきたから食おうぜ!」
「炭治郎さんがいませぇん!!」
と笑顔で炭治郎が使っている部屋の扉を開くと、きよの頭が善逸の顔面と衝突した。
「あーっ!善逸さんごめんなさぁい!」
「いや、全然大丈夫。どうしたの?」
「焦点が大丈夫じゃないですぅ」
焦点が合わない善逸の鼻から流れた鼻血をきよが拭きながら事のあらましを話す。
「炭治郎さんどこにもいなくって…!炭治郎さん傷が治ってないのに鍛錬なさってて、しのぶさまもピキピキなさってて…!」
「腹の傷かなり深かったんだよね?それでどっか言っちゃったのアイツ!!」
炭治郎が居ない事に善逸が驚くときよが更に言葉を続ける。
「それに名前さんもいなくなってて…!」
「アイツらはバカなの!?」
← 戻る →