31話 輝かしい未来の為に





「ーーー名前!!」



炭治郎の声が聞こえて衝撃に耐える為に瞑っていた目を開くと、視界の左端に倒れている炭治郎の傍らに師範が見えた。



『ーぅ゛っ、』




お腹に痛みが走り見ると、横転した時に出たであろう汽車の骨組みが脇腹に刺さっていた。



『ぁああぁあ゛』


抜いたら致命傷になると気付いて列車の骨組みを呼吸で手折り、まだ他の骨組みに比べ細かった事を喜んだ。



『し、師範!』

「動くな!出血が多すぎる!呼吸で止血する事に専念しろ!」

『ーっ、』



真っ直ぐと猗窩座を見たまま答える師範に悔しさからグッと唇を噛む。



「炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天」




炭治郎に向かって行った猗窩座を師範が技を出すと猗窩座は距離を取った。


「どうして手負いの者から狙う」

「話の邪魔になると思った。俺とお前の」

「君と俺が何の話をする?初対面だが俺はすでに君のことが嫌いだ」

「そうか。俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫唾が走る。……そこの吠えるだけの餓鬼とかな」

『ーっ、』


猗窩座は私を嘲る様に私を見て笑うとスっと師範に視線を戻した。



「俺と君とでは物ごとの価値基準が違うようだ」





師範が静かにそう言うと猗窩座は気にした様子も無く続ける。そして師範に向かって口を開いた



「そうか。では素晴らしい提案をしよう。お前も鬼にならないか?」

「ならない」

「見れば解る。お前の強さ。至高の領域に近い。……杏寿郎、何故お前が至高の領域に踏み入れられないのか教えてやろう」



そう言うと猗窩座は顎を上げて嘲笑するように口元を歪めた。


「人間だからだ。老いるからだ、死ぬからだ。鬼になろう、杏寿郎。そうすれば鍛錬し続けられる。強くなれる」


私は必死に上体を起こして呼吸を整える。ここで動かないと私が存在する意味が無い。




「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ。強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない。この少年も、名前も弱くない。侮辱するな」

『っ、』

「何度でも言おう。君と俺とでは価値基準が違う。俺は如何なる理由があろうとも鬼にはならない」

「そうか……、術式展開 破壊殺・羅針」



猗窩座は体勢を低くし師範を笑いながら睨む



「鬼にならないなら殺す」

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」



猗窩座が師範の攻撃を避ける為に後ろへと跳躍したのを見てグッと体に力を入れる。



『炎の呼吸 壱ノ型 不知火』

「っ、」



足が着く前に背後に回った筈なのに猗窩座は私の刀を避けると空中で体を捻り、地面に足を着けた。



「……邪魔だな、お前」

『邪魔する為に、ここに居る』

「………そうか、お前が言っていたあの人≠ヘ杏寿郎の事か」

『だったらなに?』

「だった尚更、お前は邪魔だな」

『は?…………ーっ、』




瞬きする間に私の目の前に飛んできた猗窩座に慌てて刀を握り直す。



「炎の呼吸 参ノ型 気炎万丈」

『っ、師範!』

「気を抜くな!」

『すみません!』



師範の隣に立って刀を構える。お腹に力を入れる度にジクジクと痛み、血が流れ隊服を汚す。



『ハァっ、ハァ、』

「………」

『…嫌ですからね』

「………まだ何も言ってない」

『師範の事だから待機命令でも出すのかと』

「……いや、考えが変わった!」




師範は体を低くして刀を構えると、笑みを浮かべた。



「共に戦う!誰一人死なせない!!」

『…はい!!』











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