30話 土台になる為に
『……猗窩座!!』
「お前は俺の名前しか言えないのか?脳みそが入ってないんだな」
『……お前は、私が倒す!!』
「…………ほぉ〜、お前がか?」
そう言って猗窩座はニタリと笑うと次の瞬間には辺りをピリつかせ体を低く構えた。
「術式展開 破壊殺・羅針」
『ーっ、』
私は刀を構えて呼吸を整え、真っ直ぐに猗窩座を睨む。
『炎の呼吸 壱ノ型』
「さっさと死ね」
『不知火』
向かってきた猗窩座の首を狙って技を放つと猗窩座はグッと上体を低くして避ける。そのまま刀を下に下ろすと猗窩座は左に避けてスっと立ち上がった。
「炎か…、確かに腕は良い。……だがまだまだ弱い」
『っ、』
「貧弱過ぎて目も当てられない。お前は俺がここで殺さなくてもいずれ死ぬ。俺は弱い奴は大嫌いなんだ。それに俺はお前と違って暇じゃないんだ。退け」
『っ、…………私はここで必ずお前を倒す』
「お前ではどう足掻こうと無駄だ」
『………それでも、』
「ーっ、」
『炎の呼吸 参ノ型 気炎万丈』
一気に間合いを詰めて猗窩座の胸元を抉りとる様に剣を刺し込む。すると猗窩座は後ろへと下がりしゃがんで着地をした。
「……今のは良かったなァ。だがこんな傷はただのかすり傷………ほら、もう治った」
『……私に、お前を倒すことは、出来ない』
「力の差は分かるくらいの知能はあるらしいな」
『………運が良くて相打ちが限界だ』
「それも砂の中の一粒を見つける程の可能性だがな」
『………だから、…だから私は少しでも時間を稼ぐ』
「時間を稼いだ所でお前では陽光が差すまで俺を食い止めることは不可能だ」
『…陽光が差すまでじゃなくていい』
少しでも時間を稼げばあの人がお前を必ず倒す。
『……お前じゃ、あの人には勝てない』
「………ア゛ァ?」
私は刀を下ろして猗窩座を真っ直ぐ見て、あの人を思い出して思わず笑みを浮かべる。
『……あの人は必ずお前に勝つ。私はその土台で構わない』
「………そうかァ…、ならさっさと死ね」
猗窩座を怒らせてしまった。余裕を持たせておけば何処かで油断したかもしれないのに。馬鹿な事をした。
けれど心は穏やかだった。
『炎の呼吸 伍ノ型』
「術式展開 破壊殺・空式」
『炎虎』
猗窩座は空中から虚空を殴ると、私が出した炎虎を打ち消した。
「…やはり弱い」
『ーっ、』
猗窩座の拳が私の左脇に入り、ビキリと肋にヒビが入ったのが分かった。慌てて距離を取って脇腹を抑える。
『ハァ、…ハッ、』
相手は上弦の鬼、やっぱり私なんかでは手も足も出ない。
『……それでも、失って後悔するなんて絶対に嫌だァ!!』
「…闘気だけは一人前だなぁ」
『絶対に殺させない!お前が過去に大切な人を失っていようと!!私は!!お前を絶対に許さない!!!』
「…何を言っている。骨が折れたせいで気まで可笑しくなったか」
『炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり』
一気に間合いを詰めて猗窩座の頸を狙って刀を振り下ろす。
『ーガハァッ、』
振り下ろした筈だったのにいつの間にか私の脇腹には猗窩座の足が当たっていて、次の瞬間には背中に強い衝撃を受けた。
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