28話 戻る為に
『そういえば今度の休日に温泉街に行こうってお話でしたけど…』
「…………あぁ!」
『………忘れてたんですね?』
「……………すまない」
身に覚えのない話に、煉獄は返事をしたが名前はそれに気付きジト目で見つめると煉獄は肩を落としながら素直に謝ると名前は少し笑って話を続けた。
『最近は任務ばかりであまり屋敷に居られなかったからと、杏寿郎さんが温泉街に行って息抜きに行こうと言ってくれたんですよ』
「それは良いな!」
『良いなって…、杏寿郎さんが言ってくれたのに』
名前が可笑しそうに笑うと煉獄もまたつられるように笑った。
『……私は本当に幸せ者です』
「………俺もだ」
名前に向かって手を伸ばした時、煉獄の体が炎に包まれた。
******
「俺の家族を侮辱するァァァアアァァ!!」
怒りの込められた炭治郎の怒号が聞こえて名前が汽車の天井を見上げると、次の瞬間には汽車の中が肉の塊の様な物に覆われた。
『……これは!』
私が慌てて師範に駆け寄り肩を揺するけど起きる様子は無かった。
『……禰豆子ちゃん!嘴平くんを優先でお願い!!』
私が急いで言うと禰豆子ちゃんは頷き、嘴平くんに炎を灯した。
『師範!…師範!起きてください!』
肉の塊がウヨウヨと動きだし乗客に触れようとするのを感じて刀を抜き肉の塊を斬る。
『……』
私は守れても3両が限界だ。嘴平くんは炭治郎の元に行ってしまう。禰豆子ちゃんは嘴平くんが目を覚ましたら善逸を起こす為に炎を当てる。私だけじゃ守りきれない。
『……師範っ!』
悲鳴にも似た声が列車に響いた。
******
『杏寿郎さん!?体から炎が!!』
「………これは、」
煉獄は驚きながら両手を見ると手首に巻き付くように炎が燃えていた。
『どっ、どうしよう!!水っ、水っ!』
「………竈門妹の血鬼術か…?」
炎に包まれているのに熱くも無く、苦しくも無い炎に煉獄はグッと手のひらを握る。
『やだっ、杏寿郎さん!死なないでっ!!』
「ーっ、」
苦しそうに涙を流して叫ぶ名前に煉獄はグッと息を飲む。
「……名前、」
『やだっ、やだぁっ、死なないでっ、死な、ないでっ、』
煉獄は泣き叫ぶ名前の頬を撫で、名前の流れ続ける涙を拭う。
「………俺は泣かせてばかりだな」
『杏寿郎さんっ、』
「……必ず、君の元に帰ると約束する」
『っ、生きてっ、生きてくださいっ、』
「…言っただろう。俺は死なない」
煉獄は名前の頬から手を離すと、名前は慌てて手を伸ばす。けれど煉獄はその手をひらりと避けて背を向ける
『ーっ、煉獄さん!!』
「ーっ、」
煉獄は一瞬だけ歩みを止めたが、直ぐにまた歩き出した。
「………俺は、名前の元へ帰らなければならない」
そう言った煉獄の瞳には迷いは無くなっていて、真っ直ぐと強い眼差しで前を見つめていた。
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