26話 幸せな夢を現実に




「……名前?顔色が優れない様だが」

『………』




師範の手が私の頬に当てられ、心配そうに撫でる。



ここは、現実なのか?



それとも、見せられている夢なのか?




『………これは、夢……?』

「夢?何を言っている!今は昼間だ!」

『……師範は、本物ですか?』

「はっはっは!面白い事を言うな!ここは藤の花に囲まれている屋敷だ!血鬼術にかかる訳もない!」

『……そう、ですよね、』





私は自分に言い聞かせる様に言葉を吐き出す。けれど冷や汗は流れて呼吸は乱れる。



「……名前、」



師範は私の頬を持ち上げて、額同士を合わせる。距離が近すぎるせいでピントが合わずにぼやける。



「…俺は今、ここに居る」

『……』

「こうして生きている」

『………はい、』

「大丈夫だ。何も心配は要らない」

『…はい、』

「これからは君の傍に居ると約束しよう」



煉獄さんは優しく呟くと瞳を閉じた。私もつられるように瞳を閉じると、煉獄さんが顔を寄せるのが分かった。




「……君だけを守ると約束しよう」




唇が触れそうになった時、彼は甘い声でそう言った。


『……違う』

「………名前?」



突然、私が彼の胸板に手を置いて距離を取ったせいで、驚いた声で私の名前を呼んだ。



『………その人の声で、見た目で、私を呼ぶな』

「……何を言っている」

『………お前は誰だ』

「俺は君の師匠であり、鬼殺隊 炎柱のーー」

『違う。お前は師範では無い』

「名前?どうかしたのか」




私は立ち上がり、居間に隊服と共に置いたままの刀を取って、鞘から刀を抜く。



勝手に呼吸が乱れる。こめかみに汗が垂れるのが分かる。




『……私の尊敬するあの人はそんな事を言わない』

「名前?」

『私の信頼するあの人はそんな事を言わない』

「どうしたんだ!」


目の前に心配そうに顔を青ざめる男を睨みあげて手のひらに力を込める。



『……私の愛するあの人は私だけを守るなんて言わない!!!』





刀を首にあてがい手前に引くと辺りに血が飛び散り意識が遠のいた。






『……ッうわぁああ!!』




目覚めた反動で立ち上がると喉がヒューヒューと変な音を立てていて、慌てて首元に手を当てて繋がっていることを確認する。直ぐに呼吸を整えて辺りを確認すると私以外は眠っていた。



『………禰豆子ちゃん?』

「ムー!」



私が声をかけるのと同時に炭治郎が炎に包まれ、繋がれていた縄が焼き切れた。



『っ、縄!』



私が慌てて手首を確認すると、私の手首に縄は付いておらず安堵する。縄に繋がれた子供達を見ると4人しか居らず、原作通りだった事に人知れず安堵した。




「あああぁぁ!!」

『っ、炭治郎!』

「はっ、ハァ、ハァっ、……はー…、ーっ、禰豆子!大丈夫か…」



炭治郎が飛び起きて顔を向けると何故か禰豆子ちゃんは額を押えていた。



「名前も起きれたのか!」

『う、うん、なんとか…』

「禰豆子頼む!縄を燃やしてくれ…!」


禰豆子ちゃんが縄を燃やしても誰も起きてはくれず、慌てていると一緒に眠っていた子供達が炭治郎と私に襲いかかった。


「ーっ!!」

『っ、』

「あんたたちが来たせいで夢を見せてもらえないじゃない!!結核だか何だか知らないけどちゃんと働かないならあの人に言って夢見せてもらえないようにするからね!」




私は彼をジッと見つめると、静かに涙を流していた。



「…ごめん。俺は戦いに行かなきゃならないから」




そう言って炭治郎は子供達を気絶させた。



「幸せな夢の中にいたいよね。わかるよ。俺も夢の中にいたかった…」




炭治郎の言葉に私はグッと唇を噛んだ。



私だって、ずっと夢の中にいたかったよ。あの人が生きている夢の中に。



あの夢を現実にする為に、私は今、ここにいるんだ







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