23話 夢を見る
「名前!」
『はい!どうかしましたか?』
刀の手入れをしていると、師範に名前を呼ばれて慌てて中断し師範の元へと急ぐ。
「明日の昼に任務に出る事になった!」
『…はい』
「その任務に名前も同行する事となった!」
『……はい!!』
師範は偶然の様に言うけれど、きっと私を推薦してくれたに違いなかった。でなければ私が呼ばれるはずが無い。
「その列車では短期間のうちに四十人以上の人が行方不明となっている!剣士を送ったそうだが全員消息を絶ったそうだ!」
『ーっ、』
息が詰まって上手く呼吸が出来なくなった。分かっていた事なのに、実際に耳にすると頭は混乱して真っ白になった。
ついに、来てしまった。
「危険な任務になるかもしれん!それでもついてくるか?」
『……はい!!』
必ず、救ってみせる。絶対に未来を変えてみせる。
*******
『…わぁ!!凄い!列車なんて初めて見ました!』
「刀は仕舞っておけ!見つかると面倒だ!」
『はい!』
師範と共に汽車に乗り込み、師範の前に腰を下ろすと彼は直ぐにお弁当を頼んでいた。
「名前も食べると良い!幾つ食べる!四つか!五つか!」
『ひ、一つで大丈夫です…』
「うまい!……うまい!」
『……確かに、凄く美味しい』
お弁当とは思えないクオリティに私は驚きの声を上げる。すると師範はジッと私を見た。
『ど、どうかしましたか?』
「…いや!この弁当も美味いが名前が作ったさつまいもの味噌汁が一番だな!」
『………え?』
「うまい!……うまい!」
突然の言葉に私はただ頬を染める事しか出来ず、それを隠す様に顔を下に向けてお弁当を眺め続けた。すると師範とは違い少しだけ高い声に名前を呼ばれる
「……あれ?名前?」
『…あ、炭治郎』
「名前ちゃ〜ん!!」
『善逸と嘴平くんまで』
「うまい!…うまい!」
「…えっと煉獄さん?」
「うまい!」
「あ、もうそれはすごく分かりました」
私は苦笑を浮かべて炭治郎を見上げた。
*******
「だが知らん!ヒノカミ神楽≠ニいう言葉も初耳だ!君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたいがこの話はこれでお終いだな!」
「えっ!?ちょっともう少し…」
「俺の継子になるといい。面倒を見てやろう!」
「待ってください!そしてどこを見てるんですか!」
『そしたら私は姉弟子だね。よろしく』
「名前も話に乗らないでくれ!」
「俺外に出て走るから!どっちが早いか競争する!」
「馬鹿にも程があるだろ!!」
善逸と嘴平くんの会話に師範は顔を向ける。
「危険だぞ!いつ鬼が出てくるかわからないんだ!」
「え?……嘘でしょ!?鬼出るんですかこの汽車!」
「出る!」
「切符…、拝見…、致します…」
『……』
私は現れた車掌さんに瞳を細める。炭治郎も何か嫌な雰囲気を感じ取ったのか眉を寄せていた。
『……』
「……切符、拝見致します…」
私がゆっくりと切符を取り出し、渡すと車掌さんは受け取る為に手を伸ばした。けれど私は1度手を引いてしまい炭治郎や師範が首を傾げた。
「…切符…拝見…、」
「…名前?どうしたんだ?」
炭治郎が心配そうに私を呼ぶ。ゆっくりと息を吐いて、ゆっくりと息を吸う。
大丈夫。やるべき事は、分かってる。
切符を渡すと車掌さんは受け取って、パチンと音を立てて切り込みを入れた。
そして私は夢を見る。
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