21話 鬼を連れた少年




柱合会議が行われている間、1人で縁側に座り待っているとカランと音がして下げていた顔を上げる。



『ーー炭治郎!』

「……名前?」




私が隠に背負われた炭治郎に駆け寄ると彼は驚いた様に目を見開いた。



『大丈夫だった!?怪我凄いけど!?』

「…あぁ!無事だ!………それと、名前に話さないといけない事があるんだ」



そう言った炭治郎の表情は緊張が現れていて、私は小さく頷きひとつ提案を掲げる。



『とりあえず、怪我の治療をしよう。話はその後』

「……あぁ」



*******



炭治郎は蝶屋敷の怪我人が着用する患者服に着替えて病床の上で正座をした。私は近くに椅子を移動させて炭治郎に向き合う。



「………」

『……』




無言が続いてどれくらいになったのか。五分か、十分か…、もしくはもっと経っているのか。隣の病床に居る善逸が固唾を呑む様に短くなった腕のせいで余っている袖を口元に当てながら見守っているのが分かった。



『………鬼を連れてるって聞いた』

「ーっ、」

『…それは本当なんだよね?』

「……」


私が先に言うと炭治郎が息を飲んだのがわかった。


『私は師範から、鬼を連れた隊士が居るって聞いた。すぐに炭治郎の事だって気付いたよ。炭治郎達が那田蜘蛛山に向かう前背負っていた籠から鬼の気配がしたから』

「………気付いて、たんだな」

『……でも私はちゃんと、炭治郎から聞きたい』

「………俺は、」




炭治郎はグッと唇を噛むと、ゆっくりと噛み締める様に言葉を紡いだ。



「………俺は、鬼を連れてる」

『……うん』

「……妹、なんだ。鬼だけど、俺の妹で、大切な家族なんだ」

『……うん、』





知ってるよ。鬼舞辻無惨に家族を殺された事も、妹が鬼にされた事も。そしてその妹を人間に戻す為に鬼殺隊に入った事も。……知ってるよ。でも私はちゃんと、私の前に居る……、竈門炭治郎というキャラクターとしてでは無く、友達としての竈門炭治郎から話が聞きたいんだ。




「……ある日俺が帰ると、家族は殺されていて…、妹の禰豆子だけが鬼になって生きてたんだ」

『……うん、』

「…だから俺は、禰豆子を人間に戻す為に鬼殺隊に入隊した。……でも!禰豆子は人を食べたりしない!本当だ!………本当は最終選別の時に言ってしまおうと思ったんだ」

『……』

「名前からは優しい匂いがしたから…。……でも、怖かったんだ、名前に拒絶されるんじゃないかって」

『………』

「…鬼殺隊には、家族を鬼に殺された人も少なくないって聞いた…、もし名前もそうだったらきっと、鬼を連れてる俺の事を軽蔑するんじゃないかって…、」



出会って数時間の人に、秘密を話そうなんて誰が思うだろうか。少なくとも私は2年近く一緒に居てくれる師範にさえ、秘密を話せていない。勿論信頼はしている。けれど本当の事を伝えて拒絶されたらと思ったら怖くて言えない。


本当は物語が変わってしまう事よりも、あの人にーー煉獄さんに拒絶されるのが怖いだけだ。




『……秘密を打ち明けるって怖いよね』

「………名前…、」



私は自分の手元に視線を下げて、ゆっくりと言葉を続けた。



『……炭治郎は本当に優しいね』

「………え?」



善逸が言っていたように、泣きたくなる程、君は優しい



『……自惚れかもしれないけど、最終選別で私に言わなかったのは変な心配をかけたくなかったからっていうのもあるんじゃないの?』

「……」

『ただでさえ最終選別は過酷で、鬼がいつ現れるかも分からない状況で鬼の禰豆子ちゃんの話をするわけにいかないって思ったんじゃない?』

「…………」

『……ここでの無言は肯定だよ。炭治郎』




私が笑って茶化すと炭治郎はグッと眉を寄せた。



「……俺は、絶対に禰豆子を人間に戻す」

『……うん、私も協力出来ることは協力するよ』

「…ありがとう、」

『…私こそ、話してくれてありがとう』




私は一筋涙を流した炭治郎の頭を撫でると、堰を切った様に炭治郎はボロボロと涙を流した。



私の手にポタリと1滴水滴が落ちた。きっと天井が雨漏りしてたんだな。…うん、きっとそうだ。







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