20話 感情に名は無い
「今日は柱合会議がある!」
『珍しいですね。急遽決まるなんて…』
「鬼殺隊の隊士が鬼を連れているらしい!」
『っ、』
私がピクリと体を揺らすと、師範はそれを感じ取ったのか一瞬だけ瞳を細めた。
『………その鬼と隊士はどうなってしまうのですか?』
「……斬られるだろうな!立派な隊律違反だ!」
『………』
私が唇を噛むと、師範は腕を組んで私を見下ろした。
『……私も、柱合会議に連れて行って頂けませんか?』
「…なに?」
『……お願いします』
「………分かった。しかし、当たり前だが柱合会議に参加する事は出来ない」
『はい!』
「……そして、万が一にも君がその2人を庇う様な事があれば」
師範に睨む様に見下ろされ、体がピシリと固まる。
「俺は君を斬ることになる」
『…………はい、分かりました』
私が静かに答えると師範は背を向けて歩き出し、私は慌てて追いかけるように後を追った。
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煉獄の心の中は穏やかとは言えなかった。今すぐにでも名前を問い詰めたい衝動に駆られた。
鬼を連れた隊士とどこで知り合ったのか。
どうして気になっているのか。
どうして庇おうとするのか。
聞きたいことは沢山あった。けれど実際には何も聞けずじまいだ。詳しく聞いて、どうなるというのか。
「…名前」
『はい?』
自分の隣で首を傾げる少女に煉獄は気付かれないようにフーっと息を吐く。
「……いや、なんでもない!少し急ぐぞ」
『はい!』
そう言った少女の瞳には自分は映っていなかった。彼女の瞳には鬼を連れた隊士の事しか映っていなかった。
ーーあぁ、酷く腹立たしい
自分らしくない感情に煉獄自身も驚いていた。黒い感情に嫌気が差した。
以前、胡蝶に恋心を抱いているのか、と聞かれ煉獄は抱いていないと答えた。その言葉に嘘は無かった。本当に家族の様に、妹の様に思っていた。今も思っている筈だった。
なのにいつからこんな黒い感情を抱くようになったのか、煉獄にはもう分からなかった。
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