18話 猪頭少年と黄色い少年




「……あ!名前!」

『…炭治郎!』




その日は1人での任務に向かう為、道を歩いていると声をかけられ振り返ると炭治郎と金色の髪の男の子ーー我妻善逸、そして猪の皮を被ったーー嘴平伊之助が居た。



『炭治郎はこれから任務?』

「あぁ!那田蜘蛛山に向かう様に鎹鴉から伝達があったんだ!」

『……… 那田蜘蛛山?』

「……名前?」




もう、そんなに話が進んでいたなんて気付かなかった。時間が無い事は分かっていた。それでもこんなに早いなんて思って居なかった。



「……名前?顔色が優れないみたいだけど…、」

『…あ、うん、大丈夫、ちょっと、疲れてるみたい』

「……任務は中断した方が良いんじゃないか?」

『……大丈夫、休んでる時間、無い』




私がそう零すと炭治郎は心配そうに、不安そうに顔を歪めた。



「……名前、本当に、」

「炭治郎ぉおおおぉおお!!」

「痛いっ!痛いぞ!善逸!髪を引っ張るな!」

「誰だよ!!誰だよおぉお!!なんで俺達と居た筈の炭治郎だけが女の子と知り合ってるんだよおぉ!!」

「名前はっ、最終選別の時に知り合ったんだ!というかいい加減に手を離してくれないか!?」

「俺は我妻善逸だよぉ!よろしくね!!」

『…あ、うん、宜しくね、我妻くん、』

「善逸で良いよぉ〜?むしろ善逸って呼んでください!お願いします!」

『よ、宜しく、善逸…、』




私がそう言うと善逸は奇声を上げながら高く飛び上がり華麗に着地を決めていた。


それよりも善逸の女好きは私みたいな可愛くも綺麗でもない女の人にも発動される事に少しだけ嬉しくなった事はここだけの話だ。



『……えっと、そっちの猪の君は?』

「はぁん!?誰だテメェは!」

『君と同期の苗字 名前。宜しくね』

「ふーん…、まぁ俺の方が強いけどな!」

「嘴平伊之助だ!俺とこれから一緒に任務に向かってくれる」

『嘴平くんか。お互い頑張ろうね』

「俺は頑張らなくても強ェ!」

『……そっか、』




私は色々と考える事を放置した。





『えっと、善逸…、手を離して?』

「……名前ちゃん」

『な、なに?』




善逸に手を握られて、真面目な声で名前を呼ばれて自然と体が固まる。顔を上げた善逸の瞳は真剣そのものでドキリと胸が高鳴った。




「……俺と結婚してくれ」

『…………………ごめんね、出来ない』

「……どうしても君と結婚したいんだ」

『ごめんね、出来ない』

「…結婚、したいんだ」

『…ごめんね、』

「いやぁああああああ!!なんでぇぇええええ!?」

『あの、善逸…、うるさい』

「うるさい!?急に辛辣!?頼むよぉ〜!俺と結婚してくれよォ〜!………もしかして好きな人居るの!?」





光の速さで詰め寄る善逸に1歩下がると更に善逸は詰め寄って来た。



『す、好きな人っていうか…、』

「居るんだ!!その反応は!!いやぁああ!!俺だけが孤独に死んでいくんだぁぁぁぁあ!!」

『大丈夫だよ、善逸は死なないから』

「死ぬよぉ!!俺みたいな弱い奴はすぐ死ぬんだあぁぁあ!!」

『ちょっと、本当に善逸…、うるさい…』




私が耳を塞ぐと善逸は更に汚い高音で泣き喚いた。




「いやだあぁぁぁ!!結婚!!結婚してくれよおぉぉ!!!俺だって好きな人欲しいよぉ!!」

『いや、本当に…、好きな人とかじゃなくて…、』




私は頬を覆ってボロボロと涙を流す善逸の両手を掴むと、善逸はピタリと泣き止んで顔を真っ赤に染めた。




『……守りたい人がいるの』

「……へ?」

『どうしても、守りたいの。…だから、結婚は出来ない。…ごめんね』

「………」



善逸は目を見開いて真っ赤な顔のまま固まってしまった。




『…それじゃあ私はそろそろ行くね』

「でも、体調が優れないなら…、」

『大丈夫だよ。ありがとう』

「そうだよぉ〜!名前ちゃんは俺と禰豆子ちゃんと一緒に安全な所で待ってようよぉ〜!」

『……ごめんね、私は任務に行かないと』

「え゛ぇえええぇぇぇええええ!?なんで!?なんでぇぇえ!?危ないよ!!辞めようよぉ〜!」




私の隊服の袖を掴みながら泣きじゃくる善逸に困っていると炭治郎が善逸の羽織を引っ張る。



「名前は任務に行くんだ!くだらない邪魔をするな!」

「くだらない!?今くだらないって言ったか!?」

『…ごめんね、善逸』




無理矢理剥がされた善逸は四つん這いに蹲り、涙を流していた。



「……名前、」



緊張を含んでいるのか、硬い声で炭治郎に呼ばれ顔を向けると、炭治郎は不安そうな表情を浮かべていた。



「……無理だけはしないでくれ」

『………うん、ありがとう』




私はそう言うと炭治郎に背を向けて歩き出した







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