17話 家族という名の難しさ
「今日は西の方角に進む!」
『はい!』
「鬼が出たという報告は無いが気を引き締める様に!」
『はい!』
鬼殺隊に入隊してから私は師範と任務に出る事が多かった。そのおかげか階級は庚まで上がった。
「キョウジュウロウ!キョウジュウロウ!」
『こら!炎柱様でしょ!?』
「はっはっは!名前の鎹鴉は俺の事を気に入ってくれているようだな!」
『すっ、すみません…!』
私の鎹鴉だと言うのに、師範の肩に乗ってる姿を見て慌てて降ろすために手を伸ばす。
「サワルナ!」
『触るな!?』
「キョウジュウロウ!」
『しかもキョウジュウ<鴻Eじゃなくて、キョウジュロウでしょ!?』
「ん?」
『…あ!今のは決して呼び捨てにした訳では!』
「…俺は別に気にしないがな!」
『そこは気にしてください!?柱なんですよ!?』
その後も私の鎹鴉はずっと師範の肩に乗っていた。
『……ねぇ…、いい加減に肩から降りてよ』
「ウルサイ!ダマレ!!」
『黙れ!?酷すぎない!?』
任務終わりに師範と街を歩いていると私の鎹鴉はまるで彼が自分の主だと言わんばかりの態度で、自分はここに居るのが正解だとばかりに彼の肩に居座っていた。
『その方は柱なんだよ!?私達みたいな人が簡単に関わっちゃいけないんだよ!?』
「ウルサイ!ウルサイ!シャベルナ!」
『喋るな!?』
私が怒りに任せて両手を伸ばすと、鎹鴉に届く前に他の手に掴まれる。顔を向けると師範は少し怒った様に眉を寄せていた。
『すっ、すみません!すぐに退かしますから!』
「…俺と君は他人なのか?」
『…え?』
「どうして俺と君は関わってはいけないんだ?」
『し、師範…?』
突然の行動と言葉に驚きを隠せずに固まると師範はグッと眉間に皺を寄せた。
「………いや、なんでもない」
そう言って私の手を離した彼の表情は、なんでもない、なんて顔はしていなくて、まるで子供がお菓子を買って貰えず拗ねている様子に少し似ていて私は小さくクスリと笑ってしまった。
『…あれは言葉のあやですよ』
「……関わっては行けないんだろう」
『……もしかして師範…、……拗ねてます?』
私が少し揶揄う様にそう言うと師範はピタリと体の動きを止めた。私はその間に隣に並び顔を覗き込むと、師範はバツが悪そうに視線を逸らした。
『…すみません、嬉しくなってしまいました』
「嬉しく…?」
『師範が私を家族だと思っていてくれている事にです』
「………」
私がそう言うと師範は少し顔を顰めた。その表情に首を傾げると師範はフーっと息を吐き出した。
「……そうだな。家族だ」
『…え、もしかして違いました?』
隠しきれないショックに顔を青ざめさせると師範は少し笑って私の頭を撫でた。
「……家族だ。俺と君は。……今はまだ、家族だ」
『………………え、いつか解消されちゃうんですか!?』
「解消とは少し違うな…、そしてまた家族になれたら…、と思っている。本当の家族に」
『……解消するのに、また家族に?……ナゾナゾですか?』
「なぞなぞ?……まぁ、名前はまだ分からなくていい事だ」
『えぇ〜…?』
「シャベルナ!!シャベルナ!!!」
『圧が強い!!喋るなって言わないでよ!!喋るよ!喋りたいもん!!』
「はっはっは!今日の夕餉はさつまいもの味噌汁だな!わっしょい!」
『昨日も食べましたよね!?』
師範は楽しそうに笑って、家路を辿った。私も慌てて大きな背中を追いかけた。
← 戻る →