11話 これぞ女子会




『……失礼します』

「名前さん、こんにちは」

『蟲柱様、傷薬を頂きに参りました』

「煉獄さんから聞いています。腰掛けて待っていて下さい」

『はい、恐れ入ります』




名前が腰掛けると戸を開けられる音がして顔を向けるとカナヲが部屋に入ってきた。



『あ、カナヲ、こんにちは』

「こんにちは」



カナヲは少し微笑むと私の隣に腰を下ろす。私が首を傾げ、用事を問うとカナヲもまた可愛らしく首を傾げた。





『……あ、蟲柱様に用事があった?私席外そうか?』

「……ううん、ただ名前が来ているって聞いたから」

『そうなんだ?』

「……」




カナヲは可愛らしい穏やかな笑みを浮かべて頷いた。その笑みが可愛くて私はカナヲの肩を掴む。するとカナヲは少しだけ首を傾げた。




『カナヲ!そんな可愛い顔しちゃダメだよ!私が男なら襲ってる!!』

「カナヲならその男を返り討ちに出来ますよ〜」

『この世には危ない男が沢山いるんです!カナヲや蟲柱様の様な可愛らしく可憐な人は襲われてしまいます!!』

「カナヲも私もそこら辺の男たちなら素手で倒せます」

『カナヲはまだ幼いんですよ!?』

「名前さんと同じですよ〜」

『でも!蟲柱様!カナヲはこんなにも可愛いんですよ!?』

「流石、煉獄さんの継子。変な子ですね」

『変な子!?』





立ち上がりカナヲの可愛さを蟲柱様に力説していると不意にカナヲに手を握られる。


『…カナヲ?』

「……」




カナヲは私の袖を掴んだと思ったら手を離し、コイントスをした。そしてそれを確認するとほんの少しだけ頬を染めて、上目遣いで私を見上げた。



「……私も、名前と話したい、」

「…まぁ!」

『……勿論だよ!!沢山話そう!!』



蟲柱様は驚いた様に、けれども面白そうに目を見開いた。私はカナヲを抱きしめて頬を擦り寄せ、柔らかくスベスベな肌に頬を擦り合わせる。




『カナヲは本当に可愛いね〜、妹にしたいくらい』

「…私、名前と歳変わらないよ?」

『そうだけどさ〜』





それは見た目だけの話で、実際の私は蟲柱である胡蝶しのぶ様より年上なのだ。許されるなら蟲柱様も蝶よ花よと愛でたいくらいだ。



『そういえばこの間、師範に街に連れて行ってもらったの』

「煉獄さんが?」

『はい!さつまいもが安かったので買いました!』

「……さつまいも?」

「…煉獄さんらしいですね」

『その日はさつまいものお味噌汁にしました!師範がお好きなので!』




私が笑って言うと蟲柱様がカナヲとは逆の私の隣に腰を下ろした。



「名前さんは煉獄さんに恋慕の情を抱いているのですか?」

『……恋慕?』



私が首を傾げると蟲柱様は楽しそうに美しく笑った。


『……恋慕の情、ですか』

「はい」

『………尊敬や、家族としての愛情は勿論、持っています。けれどそれが恋慕の心に変わる事は無いと思います』

「どうしてですか?」

『……生きていて、欲しいんです』

「………は?」





噛み合わない私の返答に蟲柱様は目を見開く。カナヲも少し驚いているのが空気で分かった。



『私の事なんて気にせず、…ただ穏やかに、幸せに生きていて欲しいんです。……私が鬼殺隊に入隊して、任務で命を落としたとしても、それでも煉獄さんには、笑顔で生きていて欲しい』


師範はこの物語の主人公であるーー竈門炭治郎に「俺がここで死ぬことは気にするな」と言った。私はその言葉がずっと引っかかっていた。

私は弱いから忘れられたくない。自分が死んだら気にして欲しい。涙を流して欲しいく無いけれど、忘れて欲しくないと言う矛盾。



『……今なら、分かるんです。師範の言葉が』

「え?」




声を上げる蟲柱様が年相応の幼い表情に見えて嬉しくなり笑うと、それを見て蟲柱様は更に目を見開いた。元から大きな瞳が開かれて零れてしまうのではと少し不安になった。



『蟲柱様は可愛らしいですね』

「……」

『勘違いしないで下さいね!?馬鹿にしているわけでは無いです!だからその怖い顔やめてください!』

「……時々名前さんは本当に私より年下なのか疑問に思う時がありますね」

『私はカナヲと同じ年齢ですよ?』

「分かっていますよ」



蟲柱様は小さく溜息を吐くと立ち上がり棚をいじると私に紙袋を持たせてくれた。



「……傷薬多めに入ってますから。お大事に」

「……名前、またね」

『ありがとうございます!お互い稽古頑張ろうね!』



そう言ってカナヲの手を握った時にガラリとまた戸が開かれた。


『……師範?』




そこには師範が立っていた。







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