9話 ひとときの夢現




『………ん、…、あれ?』



名前が目覚めると、そこは布団で昨日の事を思い出す為に思考を巡らせる。



『……いつの間に寝たんだ?……というかどうやって布団に?』



名前が首を捻ると襖が開かれ、顔を向けると煉獄が水を持っていた。



『杏寿郎様!申し訳ありません!』

「気にする事はない!体調は大丈夫か?」



特に体調を崩した覚えも無く、首を傾げるけれど冗談を言っている様な様子が無い煉獄に名前は慌てて答える。


『え?体調?……はい、特に問題無いです』

「そうか!なら良かった!」





煉獄は名前の布団の隣に腰を下ろすと、真剣な表情になりつられる様に名前の表情も硬くなる。




「……鬼殺隊に入隊したいと、言っていたな」

『…………はい』

「…何度も言うが鬼殺隊は鬼を斬るのが仕事だ。いつ命を落とすか分からない」

『………はい、』

「怪我は日常茶飯事、傷だって残るだろう。女性としてそれは避けたいのでは無いのか?」

『……確かに、前ならきっと嫌だと答えました。……でも、杏寿郎様が腕を怪我して帰って来たあの日、』



あの日から名前の頭の中には無限列車の事がチラついていた。上弦の参ーー猗窩座との戦いが頭から離れなかった。



『……一緒に居たいんです。一緒に戦いたいんです。……………一緒に、生きたいんです』

「……俺に隠れて稽古をしていたな」

『っ、』

「……それよりも辛く苦しい稽古になるぞ。幼いからと、家族だからと俺は甘やかさない。………それでも良いのか」




煉獄は心の中で名前に諦めて欲しかった。鬼殺隊は危険が多い。言葉通り、命の危険が。煉獄は自分に笑っていて欲しいと、生きていて欲しいと言った名前には、名前が煉獄に願った様にまた、煉獄も名前に幸せに生きて欲しいと願っていた。けれどーーー


『…はい。構いません。』

「……」



真っ直ぐと強い眼差しで煉獄を見つめ、迷いなく答える名前に煉獄は瞳を閉じてフッと笑う。



「……止めても聞かなそうだな」

『……すみません。…でも、どうしても鬼殺隊に入りたいです』

「……分かった」

『っ、じゃあ!』

「ただし、」




名前は今から稽古をつけてもらえると思い立ち上がろうと膝を付く。けれど煉獄はそれを止める様に手のひらを名前に向けた。


「稽古は明日からだ!」

『え、…どうして…、』

「明日から家事が出来なくなる程辛い稽古が待っている!だから、」



煉獄はフッと表情を緩め、ゆっくりと顔を上げて少しだけ意地悪そうに笑った。


「今日は名前が密かに練習しているというさつまいもの味噌汁を頂くことにしよう!」

『……………へ?……………っ、どうして知ってるんですか!?』

「そうと決まれば準備だな!わっしょい!」

『ちょっと!煉獄さっ、杏寿郎様っ、…師範!』

「はははっ、」



名前は顔を赤くしながら先を行く煉獄の後を追った。



*******




『…………』

「どうした!やめるか!」

『……やめません!』




師範に蹴り飛ばされ一瞬意識が飛んでいると、大きな一言で戻され慌てて立ち上がる。



「………呼吸が甘い!」

『ガァッ、』



首元に手刀が落とされ地面にひれ伏すと視界が暗くなる。必死に呼吸で意識を引っ張り上げる。



『……ヒュッ、……ごはっ、ごほっ、』

「…漸く少し呼吸が使えたな!」



涎をダラダラと垂らし変な音をさせながら咳き込むと、師範は小さく頷く。



「今日はここまでだ!」

『まっ、まだっ、出来ます!』



私が慌てて顔を上げて懇願すると師範は首を傾げた。


無限列車ーー、猗窩座との戦いまで時間が無い。こうしてる間も時間が惜しい。強くならなくちゃいけない。この人を守れるくらいーーー、…守れなくてもいい。ただこの人を生かすだけの力があれば。


はやく…、早く強くならないと……




「…名前」

『……ぁ、』



トン、と額に人差し指を置かれ、肩の力がストンと抜ける。



「焦れば良いというものでは無い。以前より呼吸も使える様になった。確実に強くなっている。焦る事は死に急ぐことだ」

『…………はい、』

「戦いの際も焦ってはいけない。落ち着いて状況判断に思考を巡らせろ」

『………ふぅ…、……はい』

「……集中」




師範の言葉に瞳を閉じて肩の力を抜いて、自分の体の中に意識を集中させると、至る所の筋肉の繊維が切れそうになっていた。



「修復」

『……っ、』



力を入れて切れそうな筋肉の繊維を繋ぐ。



『ングッ、』

「うむ、上出来だ!」




そう言うと師範は私の頭に手を置いて優しく撫でた。その手の温かさに自然と頬が緩んだ。





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