8話 幸せを願う
「名前」
『はい?』
「宇髄から頂いたのだが、……名前はまだ呑めないな!」
『…お酒、ですか』
杏寿郎様は任務から戻られるとその手には一升瓶が収まっており、名前はそれを受け取る。
『………私は、呑めませんね』
「つい最近だが飲酒は年齢制限を設けられてしまったからな!」
『……残念です』
この時程、この体を憎んだ事は無かった。
****
「………よもや、よもやだな」
『煉獄さ〜ん…、』
「名前がここまで酒に弱いとは…」
勿論、煉獄は名前に酒を渡してはいないが隣で食事をしていたせいか、酒の匂いを強く感じてしまったのか名前は酔っていた。
「……名前、」
『煉獄さんはさつまいもが好きなんですよね〜』
「あぁ、そうだが…、」
『今密かに練習中なんです〜、さつまいもが崩れない様にお味噌汁にするのが難しくて…、こんな事なら前に練習しておけば良かった〜、』
名前はそう言って煉獄の隣に移動して肩に寄りかかる。
『……私、最初から煉獄さん推しだったんですよ〜』
「む?おし?」
『真っ直ぐで、心も体も強くて、優しくて、人として、凄く尊敬してます』
「…そうか!」
名前は顔を上げて優しく微笑む姿が幼いはずなのに、煉獄の瞳には大人に見えて目を見開いた。
「名前…?」
『………』
名前はそのまま煉獄の頭に手を回し抱きしめる。いつもの名前からは想像出来ない行動に煉獄は体を固まらせる。
『……煉獄さんには幸せになって欲しい』
「……は、」
『こんなにも頑張ってる人には、幸せに、笑っていて欲しい、』
「……」
『…生きて、ほしい、』
お酒のせいか船を漕ぎ始め、声も小さくなり始める。
『……叶うなら、煉獄さんの傍に、居たいなぁ…、』
「……」
『…私は、貴方の支えになれてますか?……少しでも、気を抜ける様な…、心が休まる場所になれていますか?』
「……あぁ」
『こんな私でも、貴方の為に、貴方の生きる未来の為に…、』
「その気持ちだけで充分だ」
『…幸せになって、』
聞こえてくる寝息に煉獄はフーっと息を吐き、眠っていて力が抜けている名前の体を抱き寄せる。
「……俺も、君が幸せになる事を願う」
煉獄は以前より鍛錬のせいで硬くなった名前の体を抱きしめて抱き上げると優しく笑った。
← 戻る →