この世は100%顔で決まる


唐突に終わります。









「好きです!!付き合ってください!!」

『……』




今の私は見たことも無いくらいの絶望顔をしている事だろう。
某絶望大好きな超高校級の彼女もビックリするくらいの絶望顔だと言える自信がある。


そんな顔にした元凶…、いや、目の前で腰を90度に折って、手のひらを差し出しているのは、イケブクロでは知らない人は居ないだろう、と言えてしまうくらいの有名人である山田二郎だ。

誰とでも分け隔てなく仲良くしていて、勉強は出来ないが授業はそこそこ真面目に受けていて、いつもクラスの中心にいる山田二郎が私の前で頭を下げている。



『(…山田。お前も結局他のパリピと一緒だったのか)』



山田は私みたいな暗くてブスで、なのに性格が悪い私でも気兼ねなく話しかけてくれる様なやつだった。

そんな山田に他のパリピに比べては心を開いていた。けれど、今となってはそんなのは昔の話だ。結局のところ、山田も他のパリピと同じでブスを弄んで楽しむクズでしかないということが分かったのだから。



そんな事を考えていても現状は変わらない。私はこれからどうするか。…選択肢はいくつかある。



まず、@は告白を断る。という選択肢がある。けれどそれは悪手でしかないだろう。
きっとクラスの中心である女子、男子がここの近くに隠れているはずだ。
そこで私みたいなブスが断ってみろ。
そこら辺からパリピが出てきて、


「はぁ?お前みたいなブスがなに断ってんだよ。」

「言っておくけど、本気じゃねぇから。なぁ?二郎」

「当たり前だろ?カーストトップの俺がお前みたいなブスに本気で告白するわけないだろ?」

「あははっ!本当にあんたブスだよねぇ?私みたいに可愛かったらね?」




…そしてボコボコにされる事は目に見えている。



そしてAは、とりあえず告白をOKする。


「あの時の名字の顔見たか!?あははっ!誰があんなブスに告白すんだよなっ!」

「俺が罰ゲームで告白しただけなのに本当にしてたな?俺が告るわけないのにな?」

「まじうけるわ!!」





なんて会話がこの後、行われるはずだ。


それか告白をOKした瞬間に、パリピ達が出てくるか…、





「うわっ!OKされちったよ!!どうすんだよ!!俺は罰ゲームで告っただけなの!!」

「よかったじゃん!二郎!彼女できたな!あははっ!」

「ふざけんなよっ!誰がこんなブス!!」





……どちらにしても、痛いのはゴメンだ。

バカにされて終わるだけならそっちの方がましだ。



つまり私が取れる行動は1つ






『……お願い、します、』




私が聞き取れるかも微妙なくらい小さな声でそう言うと山田はバッと顔を上げた




「………え!?」




山田は驚いたように元々大きい瞳を更に大きくして私を見た。




『(さぁ!!パリピ共!!どこからでもかかってこい!!こんな事で私が傷つくと思うなよ!!ばーか!!)』





なんて悪態をつきながらも、恐怖で胸の前で組んでいる私の手はカタカタと震え出す。
周りをキョロキョロとしていると山田は差し出していた手のひらを口元に当てて、口を抑えている様子だった





『(なっ、なんだよ!私がOK出したのか吐きたくなる程嫌だったのかよ!!なら最初からお遊びで言ってくるなよ!!!私だって吐きそうだっての!!恐怖で!!!!)』






山田はブツブツと、まじか、夢オチとかじゃねぇよな?などと何かを言っていたけれど、私はそんな事を気にしている余裕は無かった。
いつどこから釘バットやメリケンサックを持ったパリピが出てくるのか分からない恐怖に駆られているのだから。



冷や汗をダラダラと垂らしながら未だにキョロキョロと周りを見ていると、山田が恐る恐るといったように近づいてきた。



「おれっ、OK貰えると思ってなかった…、いや、違くてっ、えっと、とにかく連絡先だよなっ!名字、今携帯持ってる?」

『…持ってる、けど、』



今どき持っていない奴なんて居ないだろ、と思いながら携帯を差し出す。



『(どうせ私が送った連絡もお前たちの面白いネタになるんだろ?知ってるんだからな。)』




携帯をいじっている山田を見ていると、勝手にポロポロと涙が流れていきた。




『(…お前だけは、他のパリピとは違って、顔で判断しないやつだと思ってたのに…。結局ブスは顔がいいヤツらのおもちゃにしかならないんだ…、パリピの中では山田が1番マシだったのに!)』

「え!どうした!?…泣く程喜んでくれてんのは嬉しいけど…!俺も嬉しいし!!」




とにかく帰りたいと、さっさと連絡先を交換して家に着いて部屋のベットに倒れ込む。


するとピコンと何度か鳴って、携帯を見ると山田からの連絡が入っていた。





[今日は告白OKしてくれてありがとな!]

[これからよろしく!]




…これはきっと告白がOKだったら何かを奢ってもらえるとか、きっとそういうことなのだろう。


私は返信すること無く、数少ない友人に電話をかける。


すると直ぐにコール音は切れて、甲高い声が響く。


『…もしもし』

「うわっ!辛気臭いのがさらに辛気臭くなってる!!」

『はいはい、すみませんねぇ。辛気臭くて暗くて面白味もギャグも通用しないようなブスで』

「そこまで言ってないじゃ〜ん!名前から連絡来るなんて珍しいじゃん!どうしたの〜?」

『……まぁ、ちょっと、』

「なになに?ボクも暇じゃないんだけど〜?」

『……ブスな上に暇ですみませんね』

「もしかして彼氏出来たとか〜?ははっ!まっさかね〜!名前だもんね〜」

『……』

「…え?……なに、その沈黙」

『……』





電話の向こうの唯一の友人ーーー飴村乱数は本気で驚いたのかいつも騒がしい彼の声がピタリと止まった。




『……まぁ、遊びだろうけど。ブスを弄んで楽しむ…、みたいな』

「……そうだよねぇ!!名前だもんねぇ!あ〜!びっくりした!!」

『私も乱数くんみたいな顔に生まれたかったよ』

「え〜?ボクの顔は可愛い中でも可愛いんだけど?」

『どうせ飽きるでしょ。そもそも飽きるも何も遊びだし』

「……名前に告ってきたのってだぁれ?」

『誰って、言ったって分かんないでしょ』

「分かるかもしれないじゃ〜ん!」

『……山田じ、』

「は?」

『え?』





私が苗字を言うと電話の向こうからとてつもなく低い声が聞こえて、驚いて勝手に声が漏れる。



『…乱数くん?』

「…っ、ん〜?ごめん!ちょっと電波悪いみたい!」

『そうだったんだ。それで名前だけど、』

「やっぱりいいや!名前言われてもボクじゃ分からないだろうしさ!」

『……それ私が言ったやつ』

「あははっ!ごっめーん!」





すると電話の向こうで乱数くんが呼ばれたようだった





『ごめん、仕事中だよね』

「ううん!大丈夫!でもちょっと切るね!」

『分かった。じゃあね』

「ばいば〜い!」



乱数くんとは数年前に酔っ払いに絡まれていたところを助けてもらった。
もちろんナンパではなく、


「おい!ブスが堂々と道の真ん中を歩いてんじゃねぇぞ!」

『え、いや、あの、ここ道路の端っこ、なんですけど、』

「あぁ!?ブスのくせに文句があるのか!」

『ひいっ!』





なんて脅えているところを乱数くんが助けてくれたのだ。
女尊男卑、なんて言っても世界はブスには冷たいのだ。



次の日、学校に行くのが憂鬱で休んでしまおうかと思ったが、そんな事をしたら明後日が行きにくくなるだけだと思い、いつも以上に重たい体を必死に持ち上げて学校へと向かった



「あっ、はよ!」

『お、はよう』



私の机には…



帰れブス!消えろブス!






などの事が書いてある






なんてこともなく、私の生活は特に変わったことは無かった。


変わったことといえば…




「あのさ、今日一緒に帰らねぇ?」

「昼飯一緒に食わねぇ?」

「今度の休み、一緒に出かけねぇ?」




山田が私に声をかけてくる事が格段と増えた。


それは1日だけではなく、何日も続いて、山田に告白されてから既に2週間が経っていた。



2週間たった今日、私は山田と出かけていた。


その帰り道、私はボロボロと泣き出した。





「え?え!?ごめん!楽しく無かったか!?」

『いつっ、いつになったらっ、飽きてくれるのっ!?もう十分楽しんだでしょ!?どうしたらっ、飽きてくれるんだよ!体を差し出せば終わりにしてくれるの!?』

「え?え?」




山田みたいな顔の整いすぎている奴が、私みたいなブスを抱くはずがないだろうけど、とにかくどうにかして飽きてほしくて叫ぶ。
人が少ない道を選んでいて良かったと心の底から思った。





「いや…、え?…体!?」

『学校でもっ、誰にも何も言われないしっ、それがぁっ、逆に怖いしっ!』



両手で目を擦って涙を拭う。

すると両手が温かい何かに包まれて、顔を上げる。


「そんなに擦ったら、腫れんぞ」

『腫れたって何も、変わらないしっ、むしろっ、マシになるかもしれないじゃん!』



山田は片手を離し、離した手を私の頭にのせた。



「そ、そりゃあ、いつかは、その…だ、抱きたい、とは思ってるけど…でも、その前にやっぱ手とか繋ぎてぇし…、大事に、してぇ…」

『は……?』




山田がなんの話をしているのか分からなくて、涙が止まる。



「とにかく、その、……か、帰ろうぜ」

『……』



山田の顔は真っ赤で、それを隠すかの様に前を向いてしまったけど、私の片手は温もりに包まれたままで。

手を引かれて家路を辿った。



家について、何を思ったのか私は洗面所の鏡を見た。




『……ブス』





いつもと変わらず私の顔は、ブスのままだった。





学校に行くとクラスで目立っている類の女の子に声をかけられた。




「あんた最近二郎と仲いいみたいだけど?」

『そんなことは…』

「二郎に聞いたら彼女なんだってね?」

『……すみません』

「…二郎は本気みたいだけど、どうせすぐに飽きるよ。だから勘違いしないでよね。二郎があんたみたいなブスと付き合ってること誰も認めてないから」



彼女は終始怖い顔をして私を睨んでいて、瞳の奥に憎しみが込められていた。




『そんなの、私が1番わかってる…』




小さく呟いた声は酷く震えていて、誰のいない教室に響いていた。





その日も山田に声をかけられた。



「一緒に帰ろうぜ」


そう言われてそろりと、昼に声をかけてきた彼女の方を見ると、また私を睨んでいた。




「それでさぁ、そいつが…」

『山田…』




私が声をかけ、足を止めると山田も足を止めて振り返った。


『…別れて、ください』

「……え?」




山田の声はまるで傷ついたとでもいう様な声だった。




『もう、いい加減にしてよ。そんなにブスをいじめて楽しい?』

「え?名字?」

『慣れてるよ。ブスだって言われることも、いじられることも、……罰ゲームで告白されることも』

「罰、ゲーム?…なんの話だよ」

『私だって、』



私だって、生まれた時から自分がブスだということに気づいていた訳ではない。
小学校の頃は、自分の容姿が劣っていることなんて気づかなかった。


『私、みーくんのこと、好きなの…』

「え?」


私がそう言うと、みーくんは




「はっ!?おっ、お前みたいなブス!誰が好きになるかよっ!!」







その言葉が消えない。




今考えれば、みーくんも私を好きでいてくれていたけど、恥ずかしさでそう口走ってしまったのかもしれない。



なんて思ったこともあったけど、中学生になって、気づいた。

ーーいや、気付かされた



「クラスで可愛いのはーーさんだよなぁ」

「ブスは………名字か?」

「確かに!暗いしな!」

「あははっ!」





放課後、忘れ物を取りに行くと、男子たちのそんな声が聞こえた。





そうして今の私ができたのだ。


卑屈で暗くて愛想も良くなくて、なのに心の中では一丁前に悪態をつくブス。







『私だってっ、こんな容姿になりたくてなったわけじゃない!…なのにっ、なんでっ、変わろうと思った事だってあった!…けど、結局バカにされて終わるんだよっ、だったらっ、何も頑張らない方がいいっ、…もうっ、何も、期待しない方が、楽だから…、』

「俺はっ、見た目で名字の事、好きになったわけじゃ!」

『…山田みたいに整いすぎてる奴にそんな事言われた私の気持ちなんて、分からないでしょ?……バカにされてるとしか、思えないんだよ』





優しい言葉をかけてくれた山田にもこんな事しか言えない自分が嫌いだ。



「罰ゲームとか!なんの話ししてんの分かんねぇけど!俺はっ!!」

『……もう分かったよ、』






私がそう言うと山田は安心したように息を吐いた。
けれど、山田が思っているような事では無いのだ。
私が吐き出す言葉は




『…こんな私を好きだって言うなら、別れてよ』

「…は、え?なんで、そうなるんだよ、」

『山田と付き合って、目立つことが増えた。…当たり前だよね。山田はいつだってクラスの中心に居るような奴なんだから。そんな奴がこんなブスと付き合ったら、そりぁ、誰も納得しないわな。』

「周りはっ、関係無いだろ!」

『私みたいなカースト歳の人間にはその周りの目が嫌なんだよ!!!!』

「っ!」

『それに、山田だって、私の事、す、好きみないに、言うけど、そんなの、あれと一緒だよ。今まで高級品しか食べてこなかったお金持ちが、たまにカップラーメン食べたくなるって、そんな、感じだよ』

「ち、違ぇって、なんで、そんな俺と名字は、違うみたいな、言い方するんだよ…」

『違うからだよ、住んでる世界が。私みたいなクラスでも目立たないような女と、クラスの中心に居るような男が付き合って許されるのは、2次元だけだよ。でもここは、3次元で、現実で。そんな漫画みたいな事は、許されないし、ありえない』

「っ、」

『山田は、私の事、好きじゃないよ』



私がそう言うと山田は唇を噛んで下を向いてしまった




きっと山田も嫌になっただろう。

道端でこんなに喚き散らして、自分はこんな人間だ、とマイナスしか吐き出さないこんな人間。
私が山田の立場だったら引いて、二度と話しかけない。



『……それじゃあ、』




私は帰ろうと山田に背を向けて歩き出した。




『……はっ?』





急に腕を引かれて、唇に痛みが走り目を見開くと山田が視界いっぱいに広がっていた。




「俺の気持ちを!!勝手にお前が決めんなよ!!!」

『……は?』

「俺は名字が好きだ!!!」

『い、いや、山田っ、流石にここ道だから!そんなに大声出したら!』

「一緒にいるだけで心臓はやべぇくらいに音鳴るし!家に居ても名字の事考えちまうし!デートもどこ行こうかってずっと悩んでて!名字は何が好きなのかとか!どんな男が好きなのかとか考えて!!今みたいに一緒に帰ってるだけで舞い上がってる俺バカみてぇじゃん!!!」

『や、山田っ、』

「好きじゃなかったらこんなに悩んでねぇっつーの!!ばーか!ばーか!」

『ば、ばか、って…』

「なんで俺と名字が違うんだよ!!一緒だろ!手足が生えてて!言葉も話して!い、イシソツウ?っつーのも出来てて!!何が違うんだよ!!」

『そ、それはっ、だから、山田はクラスの、中心で、わたしは、』

「じゃあ俺はクラスの中心やめる!!」

『いや、やめるとかで、済む話じゃ、』

「じゃあどうすりゃ名字は俺と付き合っててくれんだよ!」

『だから、付き合ってるっていうのが、まずおかしな、はなしで、』

「なんでだよ!!」




山田の唇は切れていて、少し血が出ていた。私も唇が痛いから、きっと、切れていることだろう。なんてそんなどうでもいいことを思いながら、口を開く




『わ、たしは、ブスだし、』

「確かに名字は美人じゃねぇよ!!」

『ぐっ、』

「けど俺は可愛いと思ってんだからそれでいいだろ!」

『他の人は、可愛いなんて、』

「他の奴が思う必要無いだろ!」

『ブスと付き合ってたら、山田が悪く言われるだけ、でしょ、』

「そんな事言う奴がいたら俺がぶっ飛ばしてやる!」

『それは、普通に、良くないんじゃ、』




山田は興奮しているのか握りしめている手は白くなっていて、酷く力が入っていることはすぐに分かった。



『山田…、手が、』

「…名字は、」

『な、なに、』

「名字は、俺の事、嫌いか…?」





山田の目には不安の色が浮かんでいて、少し瞳に膜が張っているように見えた。




『きらい、では、無いけど、』

「じゃあ、好きか?」

『好き、でもない、』

「…でも、嫌いじゃないんだろ?」

『そう、だけど、』

「付き合ってて、嫌だったか?」

『…』

「周りが、とかじゃなくて、名字は俺と居て、嫌だったか?」






山田は、いつも明るく私に話しかけてくれた。楽しい話題なんて私は提供できないのに、なのに山田はいつでも嬉しそうに笑ってくれていた。


足の長さが違うのに、いつも私に合わせてくれて。たまに、私を伺うように後ろを振り返るその姿が、私を呼ぶ優しい声が、私が声をかけると本当に嬉しそうに笑う笑顔が、





『…嫌じゃ、ない。山田と、居るのは、楽しかったし、安心、できた。』

「……なら、いいだろ」

『は?』

「俺は名字と居れて、もちろん嬉しい。んで、名字も俺と居て嫌じゃねぇんだ。付き合うには十分だろ」

『…けど、』

「また容姿のこと言ったら、キスするからな!」

『っ、』




私が慌てて口を紡ぐと、山田は拗ねたように唇を尖らせた






「…いまは、言うところだろ」

『え、いや、』




山田は優しく私の手を取ってぎゅっと握りしめた。





「今はまだ、俺の事好きじゃなくてもいい。けど、絶対に俺の事好きにしてみせる。んで、周りの奴らを黙らせる!」

『……』

「名字は美人じゃねぇけど、俺は名字の事、可愛いと思ってる。…それで十分だろ?」





握られた手に、ほんの少しだけ力を込めると、山田は、応えるように私の手を更に握った。




『十分……、すぎる、かも、』







私が小さくそう言うと山田はニカッと太陽のように笑った。




「だろ!!」












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