あったかもしれない日常




無限列車での猗窩座との戦いで惜しくも猗窩座を倒す事は出来なかったが、煉獄は一命を取り留めた。

しかし左目は潰れ、内臓は傷つき以前のようには動けなくなってしまった。その為、煉獄は柱を引退し育手となっていた。けれど、何より驚くべきは…、



『あ、あの…、師範…、』

「む?なんだ!」

『私の巡回に付き合って頂かなくても…』




ーー晴れて2人は心を通わせ、付き合う事となった。




『………』




名前は気まずそうに視線をキョロキョロと動かし、汗をダラダラと流していた。その顔色は真っ赤に染まり煉獄を視界に入れない様に瞳を忙しなく動かせた。




「そんなに緊張することは無い!」

『……』




ーー緊張するわ!!どれだけ強心臓なの!?この人!




名前が緊張している理由は、心を通わせ付き合った事ではない。問題なのは自分達が巡回している場所だ。



男達の夢の場所ーーーー遊廓


文字通り男達の夢の場所だった。



『…あ、あの、本当に私ひとりで大丈夫なので…、師範は屋敷の方に…』

「俺と一緒に居るのが不安か!心配するな!上弦とまではいかなくても下弦なら難なく斬れる!」

『……その心配はしてないです…』




妙に鈍い煉獄に名前はガックリと肩を落とした。辺りを見渡すと遊女達が艶めかしく手を伸ばし煉獄を見つめていた。その瞳があまりにも妖艶で名前は自分に向けられた訳でもないのに頬を染めた。



「…お兄さんら、わっちらと遊んでいきはりませんか?」

『……へ?』

「わっちらを買ってくれはりません?」




そう言って遊女達は名前と煉獄の手のひらに自分の手のひらを艶かしい手つきで重ねると顔を寄せる。慌てて名前が顔を反らせると遊女は上品に楽しそうに笑った。



「まぁ、初心で可愛らしいわぁ」

『いや、あの…、私は、男じゃ』





名前の服装は安く手に入れた羽織と鬼殺隊の隊服だったおかげで、男性と間違われグイグイと力は強くないのに確実に連れていこうという意思が感じられる遊女に腕を引かれる。

確かにここの遊郭に鬼が出たと報告は無いが、近くで鬼の目撃情報があった以上は巡回をしなければならない。名前は任務を投げ出す訳にはいかないと足に力を入れて耐えるが遊女はそんな名前の腕に巻き付く。




「…そないに嫌ですか?」

『い、嫌と、言うか…、私は仕事で来ているだけなので…』



悲しそうに眉を下げる遊女に名前は罪悪感を感じて慌てて訂正すると遊女はゆったりとしたスピードで顔を上げるとその瞳には薄らと涙が浮かんでいて、その表情があまりにも色っぽくて名前は同性だというのにゴクリと喉を鳴らす。




「一晩…、今夜だけでいいでありんす、」

『あ、あの…、』




遊女はするりと名前の頬を撫でるとそのまま顔を寄せる。名前は固まってしまいそのまま遊女と顔が近づく。




「すまないが俺たちはこれから任務がある!ここで失礼させてもらおう!」

『し、師範…、』




グイッと肩を引かれて2歩下がると背中に温かさを感じて顔を上げると煉獄が遊女達を見据えていた。名前が呆然としていると肩が抱かれて居ることに気づいて名前は慌てた。



『あっ、あのっ、あのっ、師範っ、』

「それに彼女は女性だ」

『えっ、あっ、はいっ…!その、すみません…』





名前が頭を少し下げると遊女達は驚いた様に手のひらを口元に当てて声を上げた。




「そうだったんですね…、」

『騙すつもりは無かったんですけど…、』

「わっちらの勘違いです…、申し訳ありんせん…」

『い、いえっ!』






名前が両手を振って否定すると、肩にあったはずの煉獄の手が腰に移動していて名前は目を見開いて煉獄を見上げるが、煉獄の視線は未だに遊女だけに向いていた。




『しっ、師範っ、』

「それに彼女は、」




煉獄はグッと名前を引き寄せると遊女達に言い放つ。




「彼女は俺の恋人だ」

『………え!?』

「違うのか?」




名前の声に煉獄が視線を下ろすと名前は頬を染めて視線をうろつかせる。





『ち、違いません、けど…』




名前が頷くと煉獄は柔らかな笑みを浮かべた。それを見て更に恥ずかしくなった名前は視線を下げる。




「では失礼する」




そう言って腰を抱きながら歩き出した煉獄に名前も歩き出す。



『…あの、師範…、手を……』

「それにしても」




名前の言葉を遮るように言葉を紡ぐ煉獄に名前は顔を上げると煉獄の瞳と視線が交わる。すると煉獄はフッと口元を緩めた。




「遊郭に来て戸惑っている君は愛いな」

『………………へ?』





この言葉で初めから煉獄は気まずさに気付いていたのだと気付いた名前は頬を真っ赤に染める。




『きっ、気づいてたんですか!?』

「はっはっは!俺はそんなに鈍い男ではない!」

『〜っ!』




名前は脳内で、もしかして天元より手強いのではないかと頭を悩ませた。





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