SECOND65
「おっ、ちゃんと来よったな」
『流石に宮城初めての人を放置して逃げられないでしょ…』
時の流れは早く、1ヶ月が経ち侑は宮城に足を踏み入れた。ガラガラとキャリーケースを引きながら名前の前に立つと「行くで〜」と行って歩き出した。
『えっ!えっ、何処に!?』
「この近くにファミレスあったりせぇへん?」
『へ?ファミレス?』
「デートの前にやる事があんねん」
『やること…?』
名前は首をかしげながらもファミレスを案内する為に侑の隣に駆け寄って指を指して案内を始めた。
『侑何食べる?』
「ん〜…、食いもんはとりあえず後でええわ」
『ファミレスなのに?』
「ファミレスなのに」
侑はそう言うとコンコンとテーブルの上に置かれた右手の人差し指でテーブルを軽く叩いた。
『なに?そんなお金持ちがお付きの人呼ぶみたいに呼ばないでよ』
「どんな例えやねん」
侑はプッと笑うと、ゆっくりと真剣な表情へと変化させて、つられて名前の表情も固くなる。
「最初から本題言うからな」
『え?』
「俺は名前が好きや。やから付き合うて」
『……』
「まぁ返事ははいしか無いんやけどな?でも名前の事やからな〜、また嘘吐いたり、約束破るかもしれんし〜?」
『いっ、いつまで根に持ってるの…、』
「言うたやろ。一生憎むって」
『憎い相手と付き合うのってどうなの…?』
「それも言うた。憎いけど、好きやねん」
『…哲学の話?』
「茶化す所はうざい」
『…ハイ』
「俺はプロになるし、日本代表にだってなる。ぜーんぶ俺は気にせんけど、俺は年下や」
『……うん』
「けどそんなん気にならんくらい幸せにしたるから俺と付き合うてや」
『ツムツム……』
「おい、ふざけんな」
『……すんません』
侑の低い声に名前はシュンとなり謝ると侑はガシガシと頭を掻いた。
「名前が茶化す時は恥ずかしいからなんやろうけど…」
『……へい』
「んで?返事は?」
名前はグッと唇を噛んでから、ポツリポツリと言葉を探すように手探りで紡ぐ。
『…侑が言った通り私は年上だよ。しかも1歳2歳の話じゃない』
「……で?」
『私はどう足掻いても一般人だし、自慢出来るような容姿じゃない』
「知っとる」
『………でも、侑のバレーを邪魔しない自信なら、ある』
「………せやろな。むしろバレーが1番やない俺なんて興味無いやろし、バレーを優先せんかったら名前キレるやん。別に名前に言われんでも俺の1番はバレーやけど」
『興味無いなんて事は、無いけど…、でもバレーを頑張ってる侑はかっこいいと思う』
「俺が下手くそでも?」
『どんなに下手くそでも』
「……ふーん」
侑は平静を保ちながらその表情は嬉しさが滲んでいた。
『最後にもう一回だけ聞くけど、……よく考えてから答えて』
「………なんや」
『本当に私なんかでいいの?』
「名前がええねん」
名前の言葉に侑は即答すると名前は目を見開いた。
『よっ、よく考えてからって言った!』
「もう4年も考えとったわ。それにしてもほんまに面倒ババアやな」
『め、めんどう、ババア…』
「4年間じっくり考えた。それでも名前がええ」
侑はそう言うと柔らかく、けれど逃がす気は無いとでも言う様な笑みを浮かべてもう一度言った。
「名前が好きやから、俺と付き合うてください」
『…………よろしく、お願いします、』
名前が小さく頷きながらそう言うと侑は子供の様にニッと歯を出して嬉しそうに笑った。
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