SECOND64
『………』
「さっきからうるせぇ。さっさと出たらいいだろ」
縁下達の卒業式があと1ヶ月に迫った頃、放課後の練習に遅れて参加した名前のスマホはずっと着信を告げていて、烏養は鬱陶しそうに眉を寄せてそう言うと名前はギギギと壊れたブリキのおもちゃの様に烏養を見上げた。
『………コワイ』
「はぁ?何がだよ。知らない番号なのか?」
『…シッテルバンゴウ』
「なら出ろよ」
『…………』
名前はとぼとぼと体育館の外に出てスマホをタップすると緊張の面持ちでスマホを耳に当てた。
「…………無視しとったな?」
『……はい、…いいえ』
「どっちや」
『…………気付かないフリしてました』
侑のドスの効いた声に名前は正直に答えると電話の向こうから侑の溜息がハッキリと聞こえた。
「……卒業まであと1ヶ月やで」
『オ、オメデトウ、ゴサイマス、』
「1ヶ月後や言うたやろ」
『卒業した後どうするの?』
「実業団に入る」
『実業団……?』
「実業団」
『実業団……』
「何回聞くねん」
名前は宇宙猫の様な顔をしていると、侑の呼びかける声にハッと意識を戻す。
『実業団チーム!?』
「納豆並みにしつこいなっ!」
『ネバール!?』
「誰やねん!!」
侑は何度目かの溜息を吐き出すと「1ヶ月後にそっち行くから」と言った。名前は首を傾げた。
『そっちぃ〜?』
「いつもは名前が神戸に来とったからな。たまには俺から行ったる。それに俺から行かんと逃げそうやし」
『逃げませんけどっ!?』
「電話出ぇへんかったくせに偉そうに言うな」
『…へい、』
「んで今後どうしていくか話し合うからな」
『……今後?』
「今後や。あと悪いんやけど俺、宮城全然知らんから駅まで迎え来て」
『それは全然良いんだけど…って待って!ダメ!高校生のお小遣いで出せる金額じゃなく無い!?神戸から宮城って結構かかるんだよ!?』
「春から東京やから、東京から宮城ならそんな距離無いやろ」
『あるよ!地図見て!?』
「ちゃんと俺の小遣いで行くから平気やて」
『お小遣い勿体無いよ!』
「うるさいなぁ…、オカンか。それに卒業旅行も含めての宮城や。これならええか?」
『何も良くない!』
必死な名前とは対照的に「んじゃあ日程決まったら送るな〜」と呑気に言う侑に名前は慌てる。
『えっ、ちょっ、侑!?』
「おやすみ〜」
『待って!侑!……って切ったぁ!?』
スマホからは通話終了の文字が現れて、ロック画面へと戻ってしまった。名前は呆然としながら次のボーナスいつだっけ…、と頭を巡らせていた。
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