SECOND60
ライトに照らされるコートの中でまた、勝者と敗者が生まれた。春高3回戦 稲荷崎 対 烏野
「よっしゃぁあああ〜!!」
勝者はーーーーー稲荷崎だった。
『………』
名前は応援席から拍手を送る。選手たちの顔はやはり晴れなかった。こういう時、自分はどんな言葉をかけてもらったか、覚えていなかった。どんな言葉をかけてもらうのが嬉しかったか、数年経っている今となっては分かるはずもない事だった。もしかしたらどんな言葉でも嬉しくなかったかもしれない。
「…なんでお前まで暗くなってんだ」
『……繋心くん』
名前がとぼとぼと体育館の通路を歩いていると後ろから声をかけられ振り返ると真っ黒なジャージに身を包んだ烏養が居た。
『………まだ烏野のコーチやってたんだ』
「お前たまに練習来てただろ!」
『…惜しかったね、試合』
「……おう」
烏養は足を進めると、名前は自然とついて行くように後に続く。そして喫煙所について、烏養は名前を気にすること無く煙草に火をつける。立ったまま煙草を吸っている烏養の足元に名前は膝を抱えてしゃがみこむ。
『……臭い』
「勝手についてきたんだろうが」
『………煙草のせいで目が痛い』
「あー、そうかよ」
『……煙草のせいで喉まで痛い』
「おー」
烏養は抱え込んでいた膝の中に顔を埋める名前の頭をガシガシと撫でると吸った煙を天井に向かって吐き出した。
『…………悔しい、』
「……そうだな」
春高 第3回戦 勝者 稲荷崎高校
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「……侑、苗字さんに会いに行かないの?」
「は?なんで会いに行くねん」
「侑の事だから、俺の勝ちやー凄いやろーって言いに行くのかと思ってた」
「俺をなんだと思っとんねん!!」
角名の言葉に着替え始めていた侑はその手を止めて叫ぶとユニフォームの上着をバサリと脱いで椅子の上に投げる。
「………多分、泣いとんねん」
「え?」
「あいつ、感情移入しやすいっていうか、仲良うなった奴が悲しんどるとあいつまで泣き始めんねん。元々泣き虫やからな」
「…ふーん」
「それに勝者が敗者にかける言葉なんて無いやろ」
「…そういうもんなんだ」
「……他の奴の前で泣くんは腹立つけどな」
侑は唇を尖らせてそう言うと半袖を頭から被り稲荷崎の赤いジャージに袖を通す。
「それに俺は稲荷崎の宮侑や。どんなに足掻いても俺の一番はバレーで、それが変わる事は絶対に無い」
そう言った侑の姿が角名にはまるで北のように見えて少しだけ目を見開く。けれど瞬きをした次の瞬間には侑が部員達に指示を出していて、角名は少しだけ笑った。
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