SECOND59
『…………』
「…………」
駅へと向かう道中、2人は無言だった。けれど2人の片手はしっかりと繋がれていた。
「……もうすぐ春高やな」
『……確かにあと数ヶ月だね』
「…俺達は最後の大会や」
『……うん、』
侑は動かしていた足を止めた。名前もつられて足を止めると侑は真剣な表情で名前を見つめていた。
「………名前に応援して欲しいんやけど」
『………私は、』
名前は一瞬心が揺らいだが、直ぐに息を吸ってゆっくりと吐き出した。
『………私は烏野を応援するよ』
「……………分かっとったけどムカつくな」
侑は唇を尖らすとまた歩みを進めた。名前も足を進めると侑がフンッと鼻を鳴らした。
「まぁ?名前が翔陽くん達を応援しようと勝つのは俺らや。けちょんけちょんにしたるからな」
『次も勝つのは烏野だよ』
「いいや!俺たちや!」
そんな言い合いをしながら駅へと辿り着くと2人の自然と歩みを止めた。そして向かい合うとお互いに唇を尖らせた。
「次に会うのは春高やな」
『精々、烏野の事研究したらいいよ』
「1度勝ったくらいで調子乗んなや」
『それは1度でも勝ってから言ってくださ〜い』
「ほんまに腹立つな〜!」
2人はいがみ合うと、同時にフッと体の力を抜いた。そして名前は荷物を握り直し息を吐き出した。
『それじゃあまたね』
「…………名前、」
『なに?』
名前が首を傾げると侑の右手が名前の左頬に触れて唇が合わさる。名前は突然の事に目を見開いていると、侑がゆっくりと離れる。
『……………ここ、駅なんですが?』
「見せつけとけばええねん」
『……………高校生怖すぎ』
「うっさいわ」
侑はそう言うとまた瞳を閉じて顔を寄せる。名前は一瞬躊躇うが、諦めた様に瞳を閉じる。
『………恥ずかしい思いするの侑だからね。私は地元じゃないから良いけど』
「心配せんでも宮城でもしたるから」
『やめて!?』
侑は楽しそうに笑うと名前の髪を撫でる。そのまま名残惜しそうに手を離すと念を押すように「約束忘れんなよ」と言った。
『……約束ってあの3ヶ条?』
「おん」
『……もし破ったらどうなるの?』
「監禁」
『……え?』
「監禁」
間髪入れずに答える侑に名前は冗談だよね?と聞き返したかったが侑の瞳があまりにも真剣で名前はそーっと視線を逸らして聞かなかった事にした。
『やばっ!本当にそろそろ行かないと!』
「気ぃつけてな」
『うん!色々付き合ってくれてありがとう!治と角名くんにも伝えておいて!』
「え〜…」
『え〜じゃない!』
「しゃーないな…」
侑はガシガシと後頭部を掻くと、フッと笑った。
「じゃあ春高で待っとる」
『うん!絶対勝ち進むよ!稲荷崎こそ!負けないでよ!』
「誰に言うとんねん!」
そう言って笑いあって名前は背を向けて歩き出した。
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