SECOND56


「…………ほんまに、ええ加減にせぇよ…、クソババア…、」

「あ、ツムがキレた」



地響きと勘違いしてしまうほど低い声に治は特に驚くことも無くいつもと変わらず表情でそう言うと名前は目を見開いた。



「……浮気…?ようそんな言葉言えたな?俺が中学の時からどんな思いで居ったか知らんやろ…」

『ど、どんな思い…?』

「どっかのババアのせいで恋愛のレの字も体験出来なかった俺の気持ちが分かるか…?ババアに初恋奪われた俺の気持ちも考えろや…」

『そ、そんな事…、言われましても…、』




項垂れながらポツリポツリと静かに怒りを含んだ侑の声に名前は冷や汗を流しながら侑の俯いているせいで見えない横顔を見つめる。



「…浮気?そんなん出来るんならもうとっくにしとるわ。ほんまにどつくぞ」

『どつくのはやめて!?体格差考えて!?』

「……自信が無い?……そんなん知らんわクソが」

「口悪過ぎない?」

「むしろ騒がんのが余計にヤバそうやな」

『解説してないで助けて!?』

「…やから、今は俺が話しとるやろが」

『はっ、はい!』




侑はジロリと光を失った様な瞳で名前を睨むと名前は慌てて声を裏がしながら返事をする。




「……俺が馬鹿やったわ」

『………へ?』

「なんやったっけ?俺の人生背負うのが不安?俺が浮気する?あとは?」

『あ、あと?』

「あとは何が嫌で俺と付き合わんのか言え」

『あ、え、えっと、侑?』

「言え」

『か、顔が怖いよ〜?ほら!いつものキラキラスマイルは〜?』

「言わんと、今、ここで、犯すぞ」

『ヒィィ!』





ドスの効いた声に名前は必死に頭を回転させた。その間も侑は名前から視線を逸らすことなくジーッと見つめ続けた。




『…と、』

「今後に及んで歳下とか言うたらぶち犯す」

『…と、トウモロコシ、食べたいね?』

「……で?」

『………』





名前はシュンと小学生の様に両手を膝の上に置いて背中を少し丸めた。




「……無いんやな?」

『えっと…、』

「無いんやな?他に不満は」

『あの〜…、』

「無いな?」

『はい!無いです!』

「名前さん弱すぎやろ…」



治が呆れたようにそう言うと名前は唇を噛み締めて心の中で、お前の片割れ怖いんだよ!!と毒づいた。





「……俺が浮気しないっちゅー証拠が欲しいんやろ?」

『いや、あの…、あれは言葉のあやっていうか…、つい出ちゃったっていうか…、』

「あ゛?」

『そっ、それに!侑はまだ高校生だし…!』



名前があまりの怖さに瞳をギュッと閉じて両手を伸ばして侑から距離を取るようにそう言うと侑は小さく唸るように声を出した。



「……分かったわ」

『え?』

「つまりは高校卒業すればなんの問題も無いわけやな?んでその間に俺には名前しか居らんって行動で示せばええんやろ?」

『……………へ?』

「俺が高校を卒業するまであと約1年間や。その間俺は他の女に手を出さへん。絶対に」

『あ、侑さん…?』

「中学の時からそうやったんやからあと1年なんて御茶の子さいさいや。………俺を舐めんなよ」




侑は怒りとはまた違うギラギラとした瞳で名前を射抜くと、名前は一瞬息を止めた。



『あ、つむ…、』

「んじゃ!約束事決めるで!」

『…え?』



さっきとは打って変わって機嫌が良さそうに侑はニッコリと笑って指を3本立てた。突然の切り替えに名前はポカンと口を開きマヌケな顔を披露する事となった。





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