SECOND55


『つ、付き合わない…』

「…………………へ?」




予想外の名前の答えに侑は目を丸くし、素っ頓狂な声を上げる。その間に名前は侑から離れて椅子の端まで体を下げて、さっきまで侑達を遮っていた仕切りに背中を付ける。



「…………き、聞き間違いやんな?」

「付き合わない言うたな」

「ていうか侑はここがどこか忘れてない?ついでに俺達が居る事も忘れてたよね?」




角名は店員さんを呼んで席を移動することを伝えると、治の隣に腰を下ろした。侑は固まったまま動かなかった。まるで梟谷の木兎のしょぼくれモードのように魂の抜けたような顔になっていた。



「お、お客様?大丈夫ですか?」

「放って置いといてもろて大丈夫です」

「侑恥ずかしいから座ってよ」

「………おん、」



放心状態のまま名前の隣にストンと腰を下ろすと名前は気まずそうに視線を泳がせた。




「おーい、ツム?死んだか〜?」

「………生きとるわ、あほ」

「これは駄目そうだね」

「なんでツムと付き合わないんですか?」

『………』




治が問いかけると侑はゆっくりと名前を見て、名前は視線を逸らして目が会わないように自分の水を眺めた。




『…………』

「…………俺の事、好きなんとちゃうんか」

『……』




侑がポツリと零した言葉に名前は言葉に詰まった様にグッと息を飲んだ。名前は3人の視線を感じて項垂れる様に視線を下にさげた。




「……なんで、好きなのに一緒に居れへんの」

『……』

「……俺がプロになるからか?」

『………』

「………俺が歳下やからか?」




苦しそうな侑の声に名前の体はピクリと揺らして膝の上に乗せていた机の下にある両手で気まずそうに指遊びをした。




『……本当は、…………本当は、違うの』

「……は?」

『侑の為とか、侑が悪く言われるのが嫌とか…、確かに嘘じゃない…、でも、違うの、』



名前は声を震わせて小さく首を左右に振った。そのせいではらりと落ちた髪のせいで侑から名前の表情は見えなくなってしまった。




『…本当はただ、……私に自信が無いだけ、』

「……自信?」

『……』



名前は眉を寄せると苦しそうに言葉を零した。




『…私が、…私なんかが…侑の人生を背負う自信が無い…、侑が言ってたように、侑には輝かしい未来が待ってる…、その人生を背負う自信が無い…、』

「……名前」




侑は真面目くさった声で名前を呼び、内心名前が人生を背負うまで考えてくれていたことに小さな歓喜を覚えていた。侑はゆっくりと名前に手を伸ばして触れようとしたが、その前に名前が顔を上げて侑を見た。視線が交わって侑は優しく微笑むと名前もフッと微笑んで口を開いた。





『……それに侑、絶対浮気するでしょ?』

「………ブッ、ふふっ、」

「…あ、あつ、あつむ、か、かわいそ、くくっ…」



名前の言葉に侑はピシリと固まってしまった。治と角名は堪えきれていない笑いを必死に手のひらで押さえ込み、その手の平から笑いが零れていた。









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