SECOND54
『……侑』
「やっぱりストーカーしとったな…」
目を見開いて驚いて固まる名前と顔を歪める治を無視して侑は顔を俯かせたまま大回りして名前の前に立つとゆっくりと顔を上げた。その表情は言葉に出来なかった。傷ついた様な、苦しそうな、怒っている様な…、けれども泣きそうな顔をしていた。
「………ほんまに、面倒臭い女やわ。お前は」
『え、…え?』
「うざいし、面倒臭いし、自己中やし、男好きやし、人の話は聞かへんし、嘘は吐くし」
『な、なんで急に悪口…、』
「……ほんまにお前の事が嫌いや。俺は未だに許しとらんからな」
「いつまで引き摺っとんねん」
「うっさいわ!……俺はこれから一生、お前を憎んで生きるで」
『………』
侑の瞳には確かに憎しみの色がメラメラと揺れていた。名前は口を開くが、直ぐグっと唇を噛み締めた。
「……俺みたいな将来有望な高校生の心を傷付けといてお前はのうのうと他の男と付き合う言うんか」
『……だ、だから、私は侑から離れて、』
「離れたら俺の傷は癒えるんか?」
『…時間が、解決してくれる、』
「消えへん。言うたやろ、俺は一生憎み続けるて」
『……だったら、どうしたらいいの、』
苦しそうに言葉を紡ぐ名前に侑は淡々と言葉を続ける。
「俺と付き合うたらええやん」
『……なんでそうなるの、』
「俺と付き合えば許したる」
『……侑、』
「選んでええよ。俺に憎まれ続けて俺の心にそれはそれは、ふっか〜い傷を残して自分だけ幸せになるか、それとも俺に憎まれながら一緒に幸せになるか。選ばしたる」
『………』
「ちなみに俺に憎まれ続ける方選ぶんならそれなりの覚悟した方がええで」
『覚悟…?』
名前が聞き返すと侑は小さく頷いて腰に両手を当てて胸を張った。
「万が一にそっちを選んだら俺は一生憎み続けるし、引き摺るで?他の女を好きになれへんやろな〜。俺は1人で寂しく死んでいくんやろな〜。そうなったら名前が俺と結婚するしか無いで?」
『…は?』
「まぁ、要は時間の問題や。さっさと俺と結婚するか、後々結婚するか」
『……ま、待ってよ、それじゃあ離れる意味が、』
「前から思っとったけど、不公平やろ」
『は?…は?不公平…?』
テンポよく進む侑の会話に名前はついていけずに混乱する。けれど侑は気にせずに口を忙しなく動かす。
「俺の話も気持ちも聞いてくれへんのやから俺かてお前の意見を聞く必要無いよな?」
『あ、侑…、』
「俺の事しか考えてへん、みたいに語っとったけどな…………ほんまに俺の事、ぜんっっっぜん!分かっとらん!!」
『こ、こえっ、声大きいよっ、』
「知らん!騒いで欲し無いならさっさと言え!」
『な、何をっ、』
名前が辺りを気にしてキョロキョロとしていると侑は名前の顎を片手で掴んで無理矢理視線を合わせる
「…俺の事大好きで大好きで仕方ないって言え」
『…………はァ…?』
「そしたら他人の事なんか考えられないくらいに幸せにしたる」
『………』
名前が口をもごつかせていると治が溜息を隠すこと無く吐き出す。
「……名前さん諦めた方がええで。ツムの執拗さ知っとるでしょ」
『…で、でも、』
「今は俺と話しとるやろ。なんでサムの方を向こうとすんねん」
「うわ、侑嫉妬深すぎ…」
「こいつ捕まえとくんならこんくらいはせんとあかんねん」
「にしても強引過ぎやろ…、でもまぁ、名前さんには丁度ええかもな」
「んで?どうするん?いつ結婚する?」
『け、結婚て…、』
「結局は結婚するんやから今決めたって一緒や。もし名前が他の男と結婚するなんて言うたら相手の男殺すからな」
『ヒイッッ!』
「うっわ…、怖過ぎや」
「吹っ切れた侑面白すぎなんだけど」
「それこそ俺は一生バレー出来へんな?」
『そんな…、無理矢理…、』
「お前は無理矢理引っ張って行くぐらい強引やないと面倒臭い思考ばっかして俺から離れて行こうとするやろ」
『でも…、でも…、』
「あ〜!もうほんまに面倒臭いな!」
侑はそう言うと顎を掴んだまま顔を寄せて少しでも動いたら唇が触れてしまう位の距離で止まってジッと名前の瞳を見つめる。当然の接近に名前の顔はじわじわと熱くなる。
「…名前」
『…ぁ、な、なに、』
「好きや」
『ち、近い…、』
「ほんまに好き」
『や、やめ…、』
侑の言葉に顔だけが熱かった筈が首元まで熱が移動した様にカァッと一瞬で熱を持つ。恥ずかしさから瞳が涙で歪んでいく。けれど侑は離れること無く甘ったるい声で言葉を紡ぐ。
「好きや」
『あつ、侑…、』
「俺と付き合うて」
『は、離れて…、』
「俺のものになって」
『ぅ、うぅ〜…、』
侑はコツリと額を合わせると甘さを含んだ瞳をふわりと緩めて、頬を染めながら顎を掴んでいた手を両頬に移動して優しく包み込んだ。ここがファミレスだという事を忘れているのか、必死で考えられないのか名前はキョロキョロと視線を泳がせて、侑がもう一度優しく、心底愛おしそうに名前の名前を呼ぶと名前はピクリと体を揺らしておずおずと侑を見つめ返す。
「……名前も俺の事好きやろ?」
『……ん、』
名前が唇に触れないように小さく頷くと侑は嬉しそうに笑って額を少しだけスリスリと動かしてまた口を開く。
「俺と付き合うて。名前の隣に居させてや」
『……』
熱の含まれた瞳で見つめられ名前の瞳もその熱が移った様にグラリと揺れる。それを見て侑は瞳を閉じて顔を少し傾けた。
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