SECOND53


『いやぁ〜!買った買った!』

「満足するまで買えました?」

『うん!本当にありがとう!荷物まで持って貰っちゃって!』

「ええですよ」




1時間程買い物をすると名前はスッキリした顔でスポーツ用品店を治と共に店を後にした。



「もう昼時ですけど何食いたいですか?」

『ん〜…、治は何食べたい?』

「俺は腹いっぱい食えればそれで」

『だよね〜!じゃあ食べ放題か、ファミレスか…』

「あ、そういえばファミレスで名前さんが食いたがってたケーキ出ましたよ」

『え!ファミレス行こう!』

「はい」




基本的にそういう事に関してズボラであろう治が名前の為に調べたのか、ファミレスの期間限定について知っていた事に角名は驚き、本気なのだと気付いた。そして隣が気になって見てみると侑は無表情に2人を見つめていた。



「……侑?」

「……行くで」



侑は少し低くそう言うと2人を追って足を進めた。



*******




「……にしても近すぎでしょ」

「ここやないと話が聞こえへんやろ」

「…いや、だからって、」



角名と侑は名前達が座っている隣に腰を下ろしていた。2人との間には仕切りがあるおかげでバレてはいないが、少しでも大きな声を出せばバレてしまうであろう位置に角名は眉を下げた。




「名前さん何にします?」

『ん〜…、お肉にするか…、パスタか…』

「残したら俺が食うんでどっちも頼んだらええんとちゃいます?」

『……食べたいの?』

「はい」

『正直者かっ!うん、いいね!頼んじゃおう!せっかくの神戸だし!』

「ファミレスなんで神戸感無いですけどね」

『それは気分の問題!』




2人の楽しそうな会話に侑はただ黙々とメニューに目を下ろしていた。




「そういえばこの間美味そうなハンバーガー屋出来たんですよ」

『えぇ!?良いなぁ!』

「そっちはまた今度行きましょ」

『うん!…あ、お店の名前教えて!調べる!』

「えっと…、」





そこで角名は治がスマホをいじって居なかったことに気付いた。自分は良くスマホを触っているが、双子も意外とスマホをいじっている姿をよく見ていた。なのに治がスマホをいじっていない事実に角名はそんなに治は名前との時間を大切にしたいのだと知った。侑もそれに気付いて居るのか無表情なのは変わらないが唇が少し尖っていた。





「……名前さんはツムと仲直りせぇへんの?」

『仲直り…、出来ないよ。少なくとも私から仲直りは持ち出せない』

「……」


名前は聞かれるのが分かっていたかのように治の質問に間髪入れず答えた。





「このままツムと離れてしもうてええの?」

『…うん、仕方ないよ』

「なんで仕方ないん?」

『え〜?治だって見たでしょ?』

「…ベストカップルならあれは…」

『すっごくお似合いだったねぇ〜。あれぞ美男美女だよ!侑、性格はアレだけど見た目は凄くいいから。治はベストカップル出なかったんだね?』

「……連覇すると賞金増えるんです。やから2年の時に優勝取っとるツムが推薦されたんです」

『高校生の口から賞金なんて聞きたくないな…、』

「別にツムを庇うわけやないけど、ほんまにあの二人は何にも無いですよ」

『…ん〜、でも、あれだけじゃないの。私が侑から離れた方が良いんだろうなって思ったのは』

「……理由聞いてもええですか?」

『侑はさ、私を優先しちゃうじゃん。たまにしか会えないから余計に』

「………」

『私は何がなんでも侑のバレーだけは邪魔したくない。勿論、侑自身も私とバレーを天秤にかけたらバレーを取ると思う。……文化祭の後にある自主練の時間を削ってまで私と一緒にいて欲しくない。侑は邪魔なんて思ってないだろうけど、私からしたら、私の存在は邪魔でしか無い』

「…自主練は自主的にやるから自主練なんやで」

『うん。でも侑はバレーが大好きだからさ、練習であっても自主練であっても楽しくて仕方ないと思うよ。そりぁあ辛い練習もあるだろうけど、侑にとってはそれすらも楽しいんだと思う』

「……ツムが名前さんよりもバレーを優先したらツムと付き合うんですか?」

『え?付き合わないよ』




名前のハッキリとした言葉にメニューの上に置かれた侑の手がピクリと揺れた。



『侑は天才じゃない』

「……」

『地方紙とかでは天才セッターなんて呼ばれてるけど、侑は天才じゃないよ。天才っていうのは影山みたいな事を言うんだよ』

「……」

『確かに体格の話をすれば才能だと思う。けど侑は努力して、努力して…、今の実力をつけた。もしかしたら本当にプロまで行くかもしれない。そしたら…、私はもっと邪魔になる』

「……ツムは名前さんと居った方が調子が出ると思います」



治がそう言うと名前は水の入ったコップを持ち上げて氷をカランと鳴らした。


『それってつまり好きな人が近くに居れば侑は実力を出せるって事でしょ?……私は今の職場が気に入ってる。宮城から出る予定は無いの。だから侑がプロになっても私は東京には行けない。ずっと遠距離のまま。だったら神戸とか東京で相手を見つけた方がいいと思わない?もしかしたら可愛いアナウンサーとか!………私とは違ってちゃんと、歳の近い子を』

「………今どき、年齢ってそんなに気にする事ですか?それに俺と名前さんは言うほど歳離れとらんやろ」

『……治はプロになるの?』

「…………はァ?」

『なりたい?』

「……いや、俺はなりません。というかなれません」

『そんな事はないと思うけど…、……治相手なら歳は気にしなかったかも』




予想外の言葉に侑は下げていた視線を上げて仕切り越しにボヤけて見える名前の輪郭を目を見開いて見つめた。




『芸人さんとか、モデルさん…、まぁ芸能人の人達だね、それからスポーツ選手が結婚すると騒がれるでしょ?』

「まぁ、そうですね」

『相手が一般人ってなるとマスコミはその一般人を調べるでしょ?それで簡単に年齢を調べられちゃう』

「………だから?」

『確かに最近は年の差を気にする人は減ったけど…、それでも気にする人はまだまだ沢山いる』

「………くだらないですよ」

『くだらなくても、私は私のせいで侑が悪く言われるが許せない。侑の性格だよ?元々敵を作りやすい性格なのに、自ら悪態を増やす必要なんて無いでしょ?』

「………それが、名前さんの意見ですか?」

『うん、まぁ大元はそうかな』





すると治は心底どうでも良さそうに溜息を吐くと、呆れたように眉を下げて笑った。




「要約すると、ツムの事が大好きでしかないって事ですよね?」

『………………うん、そうだね。私は侑のことが大好きだし、大切だよ。………だからこそ、離れる』





そう言った名前の笑みはとても幸せそうで治の心臓はドキリと音を立てた。そしてその音と同時に名前達の隣の席でガタリと大きな音を立てていた。







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