SECOND49
「………」
不機嫌オーラを隠さず校内を歩く侑に周りは自ら道を開けて侑を避ける。
「……宮くん、」
「…あ゛?」
そんな侑に話しかける勇者が現れた。侑が名前を呼ばれて振り返ると午前中にグランプリに出ていた夢川が立っていた。
「…あの、宮くん、いま一人?」
「……やったらなんやねん」
「良かったら、一緒に回らない?」
恥ずかしそうにモジモジしている姿が様になっていた。他の女生徒が行ったら引かれるであろう行動もこの少女がやると様になってしまう。
「……回らん」
「……えっと、それはどうしてか聞いてもいい?」
「…俺、今機嫌悪いのわからんのか」
「楽しければ、気も紛れると思って…」
「……うざいわ」
侑が再び背を向けて歩こうとした時、腕を引かれて侑はまた足を止める。苛立ちから青筋を浮かべて振り返ると夢川は頬を染めて涙目で侑を見上げていた。男ならグッと来てしまう仕草に侑は更に苛立ちを感じていた。
「……離せや」
「……代わりでいいの」
「…はァ?」
「宮くんに好きな人が居るのは知ってる…、だから私をその人の代わりと思って、一緒に居て欲しいの」
「………」
代わりという言葉に侑は口を結ぶ。確かに高校最後の文化祭をこのまま不機嫌で終わらせるのもどうかと思い、侑は小さく頷く。
「っ、ありがとう!」
夢川は嬉しそうに笑って侑の隣に並ぶ。読者モデルをしているだけあって夢川は背は高く侑より少し低く、侑は無意識に名前と比べる。
ーー名前はもうちっと低いな
そう考えて頭を左右に振る。あの自己中で人の心を考えない女の事など考えるな。
「宮くんは、何処か行きたい場所とかある?」
「……特に無いな」
「なら、私行きたい場所があるんだけど…いい?」
「おん」
侑は短い制服のスカートがふわふわと揺れるのを見て、後を追う。
「…あの、ここなんだけど…」
「……記念写真館?」
「そう!……その、宮くんと写真が撮りたくて…」
侑も何処かのクラスの出し物で写真を撮ってくれるのを知っていた。本当なら名前と来ようとしていた場所だった。
「……制服でも、写真が撮りたくて」
「………ええよ」
侑はどうでも良くなっていた。名前に実質的に振られた侑は全ての事がどうでもよかった。
「おやおや!?ベストカップルのおふたり!!」
「これは目玉になりますよ!!」
「どうぞどうぞ!!めちゃ綺麗に撮りますよ!」
分かりやすく媚びる姿勢に侑は関心すらしていた。そして夢川は慣れたようにカメラの前に立つと恥ずかしげも無くポーズを撮った。
「これ後で請求されたりしませんよね?」
「ふふっ、モデルのお仕事じゃないんだからお金なんてとらないわよ」
「良かった〜!!」
そこで侑は夢川が読者モデルをしている事を思い出した。
「宮くんもカメラの前に立って!」
「………はいはい」
侑は気だるそうにポケットに手を入れたままカメラの前に立つと夢川は少し寄って楽しそうに顔を決めた。
「はい!これ現像した写真です!おふたりに1枚ずつどーぞ!」
「わぁ!ありがとうございます!」
侑は写真を受け取ると見ることも無く夢川に渡す。すると夢川は慌てて侑の制服を掴む。
「えっ、これ…」
「俺要らんからやるわ」
「…私は、宮くんに持ってて欲しいの…」
「………」
侑は渋々受け取ると雑にポケットにしまった。
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