SECONDC


練習終わりに名前が車に乗り込むとスマホから着信音が聞こえてスマホをタップして耳に当てる。



『もしもし?治?』

「今大丈夫ですか?」

『大丈夫だけど…、この間からどうしたの?神戸は電話が流行ってるの?』

「いや、電話や無くてもええんですけど、文字打つの面倒いんで」

『…治らしい』

「本題なんですけど、次っていつ神戸に戻って来ます?」

『ん〜…特にまだ予定無いかも』

「夏休みとかは戻って来れないんですか?」

『戻っても良いんだけど家無いしな〜…』

「俺ん家泊まります?」

『それは無い。』




名前はキッパリ答えると、電話の向こうで治が笑った。


『そもそもご両親になんて言うつもりなの?息子がいきなり20代の女連れて来たら私なら問い詰めるね』

「俺の彼女でええんやないですか?」

『お母様大反対だよ』

「その前にツムがキレます」

『侑はキレすぎじゃない?どうした?情緒不安定?』

「サム〜?誰と話しと〜ん?」

「おっ、情緒不安定男が来たわ」

「はぁあん!?なんやと!?」



名前のスマホの奥で侑の声が聞こえたと思ったら治の突然の言葉に名前が吹き出すと、また電話の奥で侑の声が聞こえた。




「……もしかして名前と電話しとんのか?」

「おん」

「代われ!」

「嫌や」

「じゃあスピーカーにしろや!」

「なんで命令口調やねん」




そう言いながらもスピーカーにしたのか、少しだけ治の声が遠くなり名前もスマホをスピーカーにして車のエンジンをかけて、車を走らせた。



『情緒不安定男、元気?』

「だからそれなんやねん!情緒不安定ちゃうわ!」



名前が笑うと治も少し笑い、口を開いた。




「気が向いたら夏休みに戻ってきてください」

「え!?名前神戸に来るん!?」

『まだ決まったわけじゃないけどね』

「練習無い日!練習無い日に来てや!んでデート!」

「なんでツムと2人で出かけんねん。俺が言い出したんやぞ」

『いや、あのね?まだ行くとは決まってないからね?』

「花火大会とかええなぁ〜…」

『もしも〜し?聞こえてる〜?』

「花火大会なら出店多そうやな…」

『もしかして電波悪い?だからこんなに話が通じないの?』



そう言いながら名前は家着くと車を停めてエンジンを切った。治はそれに気付いたのか「すんません」と謝った。



「長電話しすぎました」

『いいよ。楽しかったし』

「俺らも家着くんで切りますね」

『うん。じゃあまたね』

「はい」

「サム!その前に貸して!」

「は?…おい!」

「…名前?」




小さく争った声が聞こえて、送話口に手が当たったのかガサガサと音がした。



『侑?どうしたの?』

「……あんな、」




侑の少し緊張の含んだ硬い声が名前の耳に届き、続きを待っていると侑が静かに言葉を続けた。




神戸こっちに戻って来るのほんまに楽しみにしとる」

『………え、』

「おやすみ!」

『えっ、あ、うん………おやすみ、』





侑は自分がおやすみと言うや否や電話を切ってしまい、名前はツーツー、と音を聞きながら返事をすると、少しして言葉を理解する。



『……………帰るしか、無いじゃん』




そう言いながら名前の頬は緩んでいた。




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