SECOND33
「あ、そろそろ出なあかんな」
『本当だ…』
2人は水族館を出るとコインロッカーから荷物を出して駅に向かって歩き出す。
「秋頃に文化祭あんねん」
『文化祭!?懐かしい!』
「せやろ?」
『休みなら行きたいな〜』
「休みって二ートやろ」
『そろそろ就職しようと思ってます〜』
名前が唇を尖らせると侑は口を大きく開き笑った。
「俺も引退したら1回くらい宮城行ってみたいわ」
『そしたら私が案内してあげるよ』
「楽しみやわ。ついでに名前の両親に挨拶に行くわ」
『なんでやねん』
侑はまた楽しそうに笑うと、名前もつられたように口を広げて笑う。
『あ、駅見えてきた…』
名前の目的地である駅が見えてくると2人の足取りは自然と遅くなり、ゆっくりと改札を目指す。
『……今日は付き合ってくれてありがとう。凄く楽しかった』
改札に着いて名前が侑に向き合ってそう言うと侑はゴソゴソとポケットから小さな包みを取り出して名前に差し出した。
『……?』
「本当やったらネックレスとか指輪贈れたら良かったんやけど…、」
名前は無言で侑に促され、包みを開くと中にはクラゲのキーホルダーが入っていた。
『ありがとう…、大切にする』
「おん」
名前は大切そうに袋に戻し、カバンに入れて顔を上げると侑の手が名前の頬に触れた。
『侑?』
すると侑はゆっくりと顔を寄せた。名前はピクリと体を揺らし侑の胸元に手を置くと侑はピタリと止まった。
「………嫌か?」
『い、嫌って、いうか…、』
名前は視線を逸らし、そう言うと侑は名前の前髪を持ち上げて額にキスを落とした。
「これで我慢したる」
侑はそう言って名前の前髪を直して撫でると口を緩めて笑った。
『こ、こういう事、やめて…、』
「………嫌やった?」
『い、嫌とかじゃ、無くて、』
名前の言葉に侑が眉を下げて不安げな表情を浮かべると名前は視線を下げて小さく呟いた。
『むず痒いっていうか…、恥ずかしいっていうか…、緊張するっていうか…、』
名前が口をもごつかせながら言うと侑は少し目を見開いて、嬉しそうに頬を染めて笑うと名前の頬をするりと撫でた。
「俺ん事でモヤモヤしたらええわ。そんで俺ん事意識して好きになってくれれば万々歳やん」
いつもとは違う、少し大人びた表情に名前は目を見開き、胸を高鳴らせる。
ーー△△行 △△行 電車が参ります
アナウンスが響き名前は慌てて振り返ると、腕を強く引かれ温もりに包まれる。
『……え、』
けれどその温もりは一瞬で離れ、背中を軽く押される。
「……また連絡する」
『……うん、』
そういった2人の表情はやはり何処か寂しさを含んでいた。
名前が改札を抜けて、一瞬振り返ると侑は名前を見つめていた。
『またね!侑!!』
「またな〜!!」
名前が人目も気にせず大声でそう言うと侑も片手を上げて大声で返事をした。
名前は寂しさを感じながら、電車に急いで乗り込み、カバンの中からキーホルダーを出すと愛おしそうにゆるりとクラゲを撫でた。
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