SECOND29


「あんのエロじじい…」

『本当に違うからね?ただの世間話だから』



侑は名前の手を引きながらズンズンと進めていた歩みを緩やかにすると、唇を尖らせて振り返ると、少し不機嫌そうに口を開いた。



「……なんでバレー教室なんて見たかったん?」

『……侑達がどんな場所で育ったのか見てみたかった』

「……は?」

『神戸に来れる事ってあんまり無いから良い機会だと思って。2人がどんな所でバレーに出会って、バレーを頑張ろうと思って、……バレーが大好きになったのか』

「……」

『思ってたよりずっと素敵な場所だった』




名前はバレー教室を思い出しているのか楽しそうに微笑んだ。侑は目を見開き、そしてフッと小さく笑った。



「あの教室でバレーと出会って、バレーの楽しさに気付いて、そんでバレーが好きになった」



侑はゆっくりとした足取りで歩き、昔を思い出すように遠くを眺めた。



「最初は認めた無いけどサムの方が上手くて、俺は負けた無くて必死に練習した」

『そうなんだ』

「そんでセッターのかっこよさに気付いた。練習はキツかったけど、何より楽しかったわ」

『うん』





侑の昔話に名前は相槌を打って、時には笑みを浮かべて話を聞いた。




「そんで中学でブラック企業で苛立っとる名前に喧嘩売られたんや」

『売ってないけどね?』

「あの日から名前は俺の中の特別やねん。いつ惚れたとかは覚えてへんけど、多分あの日からずっと名前は特別や」

『………』




侑は振り返ると子供のように嬉しそうにニカリと笑った。名前の心臓は大きく音を立て早く酸素を回した。



「あのエロじじいのせいであんまり時間無くなった…、あんま回ってへんけど水族館行ってもええ?」

『………うん、』





そう言って名前の歩幅に合わせた早さで少しだけ急ぐように足を動かした侑に名前はほんの少しだけ、繋がれた手に力を込めると応えるように侑の手も少し強まってまた、むず痒さに襲われた。





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