SECONDP
『………凄い、』
全国が終わってからまだ数ヶ月しか経っていないのに、稲荷崎は進化を遂げていた。特に侑のセットアップ、サーブなどの全てが高校生とは思えない精度だった。
「今年こそは優勝するでぇ」
『……』
黒須の言葉に名前は無意識に頷いていた。
『………』
名前は侑から目が離せなくなっていた。人を惹きつけてしまう程の才能とセンス。名前はまるで映像を見ている気分だった。自分がバレーを始めた頃、テレビの中のプロ達を見て瞳を輝かせていた頃の感情と酷似していた。
「ほんまに侑は凄いなぁ」
『…………凄い、…本当に、凄い』
何度も名前は凄いという言葉を繰り返していた。
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『侑本当に凄かった!!なんかっ、こうっ、凄かった!!』
「ボキャブラリー少なすぎません?」
「名前さんやからな」
『凄いよ!このままプロとか行けるんじゃない!?』
3日も経って4人でご飯を食べる事に慣れ始め、名前は慣れた様に侑の隣に腰を下ろすと直ぐに侑を褒めた。すると侑も満更でもないのか頬を少し赤らめニヤニヤする表情を抑える為に顔に力を入れたせいで変な顔になっていた。
『今のうちにサイン貰っとこうかな…』
「名前さん売る気でしょ」
『そんな事ないし!!』
治の言葉に名前は冷や汗を流しながら否定する。すると角名は味噌汁に手をつけながら小さくこぼす。
「……まるで芸能人扱いですね」
『え?』
名前が首を傾げると角名は食べ終わり、手を合わせてごちそうさまと言うと立ち上がり食器を片付けた。
「ツムなんかのサイン貰ても何の意味も無いですよ」
「はぁ!?将来日本を背負って立つ男やぞ!!」
「はいはい。ごちそうさんでした、名前さん今日も美味かったです」
『え、何その気遣い、キュンときた』
「はぁ!?ふざけんな!!」
『目がぁ!?目がぁ!!』
治を見つめる名前の目を侑がバチンと音が鳴るほど強く抑えた。
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